第154話

文字数 875文字

 たぶん上野。

 駅前の大きな通りを真澄さんと渡って、コンクリートでさまざまに造形された動物園に入っていくと、ひとつの大きなドームが劇場になっていて、学生さんたちが『三銃士』を上演中。
 もうグランドフィナーレのようなので、ちょっとのぞくことにする。

 残念なことに、キャストのほとんどが女の子で、しかもぽちゃぽちゃで可愛い。
 おそろいのサテン生地で作った銃士隊の制服に白い襟をつけて、いっしょけんめい歌っている。

 向こうからこちらの姿は見えないと思っていたのに、壁がマジックミラーになっていて、丸見えだった。
 私たち、いつのまにか、ヤマグチさんと私になっている。お嬢さんたちが寄ってきて、壁越しにソロをせがまれ、ヤマグチさんこまる。でも、やおら歌い出す。さすがだ。

 私はというと、きゅうにヒロイン役の子の侍女にされ、お着替えを手伝う。濃紺のビロード張りのケースを開けたり閉めたりしている。そこにお嬢さまの脱いだ服を入れていく算段。
 ところが、メガネケースくらい小さいので、大人の服、たとえペチコート一枚だって入りはしないと思う、のだけれど、なぜかどんどん収まり、驚く。

 受けとって収めるたびに私、それをテキストに変換してアップしていくのだけれど
(ここ変だけど本当に空中に白いスクリーンがあって文字がアップされていった)、
 ほかの作業とちがってこれだけは私すばやくできるので、お嬢さまも感心なさっている。

 お嬢さまは仔猫のような意地悪な声で、私にも何か歌いなさいとお言いつけになるけれど、私のほうがお嬢さまより上手に歌えることがわかっているから、私は歌わない。
 それとも、歌ったのだった。
 お嬢さまは黒いレースのショールの下にピンクのサテンの下着姿で、ぽかんとお口をあけて聞いている。

 ろうそくをたくさん灯したひかえの間で、これが劇中のひかえの間なのか、楽屋なのか、それとも獣舎なのかはわからない。

 あいかわらず上野にいることだけはまちがいない。
 ただし、すべての人がコンクリートの建物の中にいて、外にはいない。


※全文、ほぼ起きてすぐ書いたメモのままです。

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