第111話

文字数 761文字

 暑さの疲れでうとうとして、その間に夢を見る。

 駅の構内。荻窪駅だと思っている(ちがうけど)。駅舎が巨大。何層にもなる。ホームとホームの間をブリッジで行き来するのだけれど、どうしても行きたいホームに行き着けない。
 
 途中に、銀色の食器で出すような立派なレストランがある。
 でも食べたいものがない。

 ひかえ室らしきところに集まって、給仕服の人たちが相談している。何かメニューに足らないらしい。
 私が近づくと、背景の赤絨毯の階段が、きゅうにすりガラスの小部屋になる。
 給仕長らしい人に手をとられ、ワルツを踊りそうになる。

 くるりと一回転して、個室に通される。しつらえは変えてあるけれど、実家の居間と同じ。革のソファ。
 給仕を待っているはずが、いつのまにか私が留守番で父母の帰りを待っている。かごから毛織物の花模様のショールを次々と出している。紺と深緑とえんじ色。

 母だけが帰ってきて、私とちょっとしゃべってテレビを見始める。大相撲だろうか。
 ショールをかけてあげようと思うけれど、それより母が欲しがっているのは、チャンネルを変えるリモコンだと気づく。

 そこへ父が帰ってきて、同時にチャンネルが変わる。というより、私たちのいる場所がチャンネルの中になる。

 せまい居間がきゅうに広がり、色とりどりの服を着こんだ身のこなしの軽い人たちであふれて、『真夏の夜の夢』の最終幕の出だしらしい。
 私はうろ覚えで職人の誰かの台詞を言うものの、自信がなくて他の人のところへ駆けよって、台本をのぞきこむ。だいたい合っている。
 お芝居が進まないのは私のせいではないらしい。

 紙吹雪だけがやたらに舞う。
 本番なのか、稽古なのか。

 ふと、荻窪駅から電車に乗ってどこかへ行くはずだったと思い出す。けれども何もかもがゆっくり回っているようで、ぬけ出せない。

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