第48話

文字数 567文字

 さっきの夢。真澄さんと会っていて、別れがたい。
 と言っても、散歩しているだけ。
 場所は実家の近所の団地を変形した、なだらかな坂と建物がいりくんでつづくところ。
 
 最後に真澄さんと私、坂の上と下で塀越しに話していて、とうとう私、思いきって歩きだす。
 ところが、行く手に人だかりがしている。
 
 見おぼえのある白人の青年(誰)、口髭をたくわえてりっぱな学者か何かになった人が、引っ越してきていて、窓からもクレーンで本を運びこむようなことをしているからなのだ。
 白皙の彼は和服の着流し。くるみ色の紬らしい。流暢な日本語でこのあたりの地名の由来か何か語りだし、みな感心して聴いている。いつのまにか真澄さんも追いついてきて、その輪に加わっている。
 私だけが背を向けて、歩きだす。
 
 真澄さんはついてこず、青年の熱弁に聞き入っている。
(思えばこれが分かれ目だったと、後で思うようになるのだな)
と、ほぼ予言的な確信で、うっすらと哀しく思いながら、私は真澄さんから遠ざかっていく。
 
 青年と私は、ずいぶん昔に会っていたのだ。まだ幼い顔だちだった彼は、年上の留学生の私を慕ってついてまわったものだった。
 そのことを、真澄さんは知らない。
 青年もまた、私に再会しながら、一言も言わない。
 
 坂の上空にクレーンが舞うだけだ。


※そんな白人の知り合いいません。

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