褚裒6  褚季野なり

文字数 674文字

褚裒(ちょぼう)はとにかく名前ばっかりが先行して、
どんな人となりかが
全然伝わっていなかったようだ。

褚裒が初めて長江(ちょうこう)を渡り、
建康(けんこう)の東にある金昌亭(きんしょうてい)に到着した。

そこには地元の名士たちが勢揃い。
やってきた褚裒を、田舎親父かと思い、
からかって遊ぶ。

召使いに持って来させたのは
大量のスープと、
ほんの少しばかりのちまき。

「金! 昌! 亭!
 金! 昌! 亭!」

褚裒がスープを飲めば、
そこにすぐさま新しく注ぎ足される。

「金! 昌! 亭!
 金! 昌! 亭!」

無限ループである。
全然ちまきに手を付けられない。

それでも何とか飲み干すと、
おもむろに手を挙げた。

「っわ、私は、褚裒です!」

!?

本来呉の人間を挙げて
歓待すべき貴賓に対し、
なんてことをしでかしたのか。

とたんに、あたりの人間は
慌てふためくのだった。



褚太傅初渡江,嘗入東,至金昌亭。吳中豪右,燕集亭中。褚公雖素有重名,于時造次不相識別。敕左右多與茗汁,少箸粽,汁盡輒益,使終不得食。褚公飲訖,徐舉手共語云:「褚季野!」於是四座驚散,無不狼狽。

褚太傅の初に江を渡るに、嘗て東に入り、金昌亭に至る。吳中の豪右は亭中に燕集す。褚公は素より重名有せると雖も、時に造次を相い識別せず。左右に敕し多きに茗汁を與え、少しくに粽を箸かしむ。汁盡くれば輒ち益え、終には食い得ず。褚公は飲訖し、徐ろに手を舉げ共に語りて云えらく:「褚季野なり!」と。是に於いて四座は驚散し、狼狽せざる無し。

(輕詆7)



どんだけうだつの上がんねえ面だったんだこの人w

ところで全く関係ないけど、このエピソードがあった金昌亭で、約百年後に劉宋(りゅうそう)の少帝・劉義符(りゅうぎふ)が殺されていますね。
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