王濛3  論述家、王修

文字数 1,759文字

王濛(おうもう)さんの息子の一人、王修(おうしゅう)
かれもなかなかの文人であったようで、
簡文文壇(かんぶんぶんだん)周りからも激賞されている。

例えば謝尚(しゃしょう)は言っている。
「かれの文筆は先鋭にして、
 常に新鮮味に満ちている」

支遁(しとん)も言う。
「かれは際立って聡明だ」

また世間でも、
弟の王蘊(おううん)と共に讃えられている。
「王修はずば抜けて優れており、
 王蘊は爽やかで和やかだ」


そしてさらに、あの劉惔(りゅうたん)さんからも。

王修が13歳の時に書いた「賢人論」。
この出来栄えに感心したパパの王濛、
どうようちの子の文章、やべえっしょ!?
そう言って、劉惔に読ませた。

すると劉惔は言う。

「うん、読んだよ。
 頑張れば清談の輪に加われそうだね」

……あっこのオッサン冷静だ。


ではそんな王修さん、
どんな議論を実際にかわしたのだろう。


瓦官寺(がかんじ)僧意(そうい)、というお坊さんがいた。
そこに王修が訪問。
清談しようぜ、というわけだ。

王修は議論のテーマを僧意に振る。
では、と僧意が提示したのは、

「聖人に感情はあるのでしょうか?」

というテーマだった。

これに対し、王修。
「ありません」と答える。

「では、聖人とは
 柱のようなものなのでしょうか?」

「そろばんのようなものでしょう。
 本人に感情はありません。
 しかし、聖人を動かす由来には
 感情があります」

すると僧意が切り返す。

「聖人を動かす感情とは、
 では、誰が抱くものなのでしょうか?」

王修、この質問には答えられず、
すごすごと退散するのだった。



謝鎮西道敬仁「文學鏃鏃,無能不新」。
謝鎮西は敬仁を道えらく「文學の鏃鏃なる、能く新らしからざる無し」と。
(賞譽134)

林公云:「王敬仁是超悟人。」
林公は云えらく:「王敬仁は是れ超悟の人なり」と。
(賞譽123)

世稱:「苟子秀出,阿興清和。」
世に稱うるらく:「苟子は秀出、阿興は清和」と。
(賞譽137)

王敬仁年十三,作賢人論。長史送示真長,真長答云:「見敬仁所作論,便足參微言。」
王敬仁の年十三にして、賢人論を作す。長史は送りて真長に示さば、真長は答えて云えらく:「敬仁の作したる所の論を見たれば、便ち微言に參ぜるに足る」と。
(文學83)

僧意在瓦官寺中,王苟子來,與共語,便使其唱理。意謂王曰:「聖人有情不?」王曰:「無。」重問曰:「聖人如柱邪?」王曰:「如籌算,雖無情,運之者有情。」僧意云:「誰運聖人邪?」苟子不得答而去。
僧意の瓦官寺中に在りたるに、王苟子は來たり、與に共語せんとせば、便ち其をして理を唱ぜしむ。意は王に謂いて曰く:「聖人に情有りや不や?」と。王は曰く:「無し」と。重ねて問うて曰く:「聖人は柱が如きなりや?」と。王は曰く:「籌算が如し、情無かりきと雖ど、之を運びたる者に情有り」と。僧意は云えらく:「誰ぞ聖人を運ばんや?」と。苟子は答うるを得ずして、去りぬ。
(文學57)



聖人有情不
三国志(さんごくし)鍾会(しょうかい)伝裴注より。

何晏以為聖人無喜怒哀樂、
其論甚精、鍾會等述之。
 何晏(かあん)は聖人には喜怒哀楽はない、
 という論を精密に語り、
 鍾会(しょうかい)らはこの論に賛同し、
 また論文を著した。

弼與不同、
以為聖人茂於人者神明也、
同於人者五情也
 王弼(おうひつ)はこの論に反論した。
 聖人はセルフモニタリングに
 優れているだけであり、
 感情の働きは人と同じである、
 とした。

神明茂故能體沖和以通無、
 セルフモニタリング能力に
 長けているからこそ制御ができ、
 感情を落ち着け、平静を保てる。

五情同故不能無哀樂以應物、
然則聖人之情、
應物而無累於物者也。
 感情そのものはあるからこそ、
 悲しみ、楽しみなどに応じて
 動くことができる。
 ただし、振り回されることはない。

今以其無累、便謂不復應物、
失之多矣。
 ただ縛られ、振り回されないからと、
 それが感情がないためだと語るのは
 本質を見落とした議論であろう。


この辺の議論を踏まえると「聖人を動かすもの」が分かるような、わからないような? うーん、ここで語られる聖人は、老子の言う「無為を為し、功績を上げる」君主のこと、という認識でいいのかな。

とは言え老子も「いや聖人だってワイ世俗から切り離されてんのまずくね? って一瞬ちらりと思う事はあるよ、けど道に接続されてることを確かめるから、すぐもとに戻れるんだよ」って書いてたりもするわけで、「感情がない」とは言ってない気もするんだよなあ。むしろなぜ何晏さんは感情がないという論に行きついたのだろうか。
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