王洽   名僧法汰

文字数 1,018文字

王珣(おうしゅん)の父、王洽(おうこう)
謝安は王羲之(おうぎし)に充てた書簡の中で、
このように語っていた。

「かれの立ち振る舞いは
 実に落ちいたもので、心地良い」

そう評される彼が面倒をみる人物に、
法汰(ほった)という僧侶がいた。

北方からやって来た彼は、
はじめ名を知られていなかったが、
かれのことを王導(おうどう)さまの息子、
王洽(おうこう)が面倒を見ていた。

王洽が名士のもとに訪問する時には
必ず法汰を同道させ、
かれを連れ出せない場合には、
王洽も出かけるのをやめてしまう、
それほどの重んじっぷり。

あの王洽さんがそこまでする人なのだ!
と、法汰の名もまた
重くなったそうである。


そんな法汰については、言行がひとつ
世説新語に残されている。

六通(りくつう)三明(さんみょう)は、名前が違うだけで、
 つまりは同じことを言っておるのだ」

お、おう……?



謝公與王右軍書曰:「敬和棲託好佳。」
謝公は王右軍に書を與えて曰く:「敬和は棲託好佳たり」と。
(賞譽141)

初,法汰北來未知名,王領軍供養之。每與周旋,行來往名勝許,輒與俱。不得汰,便停車不行。因此名遂重。
初、法汰の北より來たるに未だ名を知られざらば、王領軍は之と供養す。與に周旋し、名勝が許に往きて行來せる每に、輒ち與に俱とす。汰を得ざらば、便ち停車し行かず。此に因りて名は遂に重し。
(賞譽114)

汰法師云:「『六通』、『三明』同歸,正異名耳。」
汰法師は云えらく:「『六通』、『三明』は同じきに歸せど、正に名を異としたるのみ」と。
(文學54)



王洽
晋書には「王導(おうどう)ジュニアの中で最も名が知られていたけど夭折しちゃいました、残念っ!」と書かれている。なお王珣(おうしゅん)の父であり、王弘(おうこう)の祖父。つまり息子も孫も政府の中枢近くにまでのぼっている。王導の息子たちのところでうっかり紹介しそびれたので、息子のケツにつけるという屈辱的な扱いになりました。ごめりんこ☆


六通・三明
 天眼通(ものすごい視力)
 天耳通(ものすごい聴力)
 身通(空を飛ぶ)
 他心通(読心の術)
 宿命通(過去を見通す)
 漏尽通(ひとから煩悩を断ち切る)
という六つのブッダパワーが六通。

三明はこれを分類した感じになる。
 在心の明(現在におけるすごいアレ)
 →天眼、天耳、身、他心、漏尽の総称
 過去心の明(過去におけるすごいアレ)
 →宿命
 未來心の明(未来にまつわるすごいアレ)
 →天眼。

天眼が在心と未来心にこそ
関わっているものの、
要は分類の仕方の違いでしかないので
同じもんを別の言葉で言い換えてんですよ、
ということになるらしい。

空飛ぶのか……ブッダ……
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