王恭11 王恭と王忱5

文字数 988文字

仲が悪くなっていた王忱(おうしん)王恭(おうきょう)
何澄(かちょう)という人の宴席で鉢合わせ。

この頃、王恭は丹陽尹(たんよういん)
つまり今の日本で言えば東京都知事レベル。
対する王忱は荊州(けいしゅう)刺史に就任したばかり。
こちらも日本で言い換えれば関西地方の
知事連総取締役みたいな感じだ。

つまり、どちらもえらい重鎮である。

とは言え、お互いに
何澄に呼ばれている身。
事を荒立てるわけにもいかない。
なにせ何澄は、言うなれば省庁大臣。

なので場そのものは平穏に進んだ。
が、座がお開きになる直前。

「王恭、お互い色々あるが、まぁ一献」
「要らん」

!?

どれだけ場の空気は
凍り付いたことだろう。

「は? 俺の酒が飲めないって?」
「要らんと言ったら要らんのだ!」

お互いガンと譲らず、やがては
お互いの着物を捩じり上げ始める。

この事態を受け、近くに待機していた
丹陽尹府の手勢千人ほどが
緊急動員された。

一方の王忱も、その手勢こそ
多くはなかったが、前に出てくる。

いやいやいやいや、
何やってんのお前ら!

慌てて二人の間に割って入る何澄。
それでようやく、
二人のにらみ合いは終わった……
の、だが。

それにつけても、権力をかさにきての
マウンティングなぞ、
古人が最も恥ずべきことと
していたはずなのだが……。



王大、王恭嘗俱在何僕射坐。恭時為丹陽尹,大始拜荊州。訖將乖之際,大勸恭酒。恭不為飲,大逼彊之,轉苦,便各以裙帶繞手。恭府近千人,悉呼入齋,大左右雖少,亦命前,意便欲相殺。射無計,因起排坐二人之閒,方得分散。所謂勢利之交,古人羞之。

王大、王恭は嘗て俱に何僕射が坐に在り。恭は時に丹陽尹と為り、大は始め荊州を拜さる。將に乖れたらんとせる際に訖りて、大は恭に酒を勸む。恭は飲を為さず。大は逼りて之を彊いたること轉た苦しく、便ち各おの裙帶を以ちて手を繞る。恭が近きの府の千人、悉く呼びて齋に入らしむれば、大の左右は少なきと雖も、亦た前まんことを命ぜられ、便ち相い殺さんと欲せんと意す。射に計は無かれど、因りて起ちて坐の二人の閒を排し、方に分け散ぜしむるを得る。所謂勢利の交、古人は之を羞づ。

(忿狷7)



何澄
何充(かじゅう)さんの親族。甥の孫とのことである。そして穆帝(ぼくてい)陛下の皇后何氏の兄、つまり外戚。変な振る舞いすればいきなり族滅喰らってもおかしくない立ち位置の人であり、良く生き延びたね……頑張ったね……! と言う感じ。まぁ王恭と王忱の間に割って入れるくらいの人だし、肝っ玉は相当だったんだろうけど。
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