羊祜2  生き字引を前に

文字数 737文字

賈充(かじゅう)が武帝の命を受け、
魏の代までにずいぶんと煩瑣になった
諸ルールを簡易化しよう、と
新ルールの制定に動いていた。

この件については、
達人にお伺いを立てるのがいいだろう。
鄭沖(ていちゅう)曹丕(そうひ)の時代より、
様々な訴訟ごとを裁いてきた。
いわばルールの生き字引である。

賈充、羊祜(ようこ)と共に鄭沖の元を訪れる。
新ルール案を確認してもらおうとすると、
鄭沖は言った。

「私には古の名裁判官、
 皋陶(こうとう)のような、
 厳格な判断はできないのですがね。
 どこまでお役に立てるのかどうか」

皮肉である。綱紀を緩めるとか、
民のタガ外すだけじゃんよ。
暗にそうぶつけてきたのだ。

それに対し羊祜、あくまでしれっと言う。

「陛下のお望みは、
 世の中をもう少し寛容にしたい、
 とのことであらせられます。
 より住み良き世の実現のため、
 御老のご経験、お貸し願えますまいか」

あーそうですか、と鄭沖、
てきとーに回答した。



賈充初定律令,與羊祜共咨太傅鄭沖。沖曰:「皋陶嚴明之旨,非僕闇懦所探。」羊曰:「上意欲令小加弘潤。」沖乃粗下意。

賈充の初め律令を定むるに,羊祜と共に太傅の鄭沖に咨る。沖は曰く:「皋陶の嚴明の旨は、僕がごとき闇懦の探ぜる所に非ず」と。羊は曰く:「上意は小さく弘潤を加わしむるを欲す」と。沖は乃ち粗に意を下す。(政事6)



鄭沖
まさかの鄭沖さん再登場。でもこれで出番終了らしい。というわけで改めてこの人について紹介しておく。本文にも書いたとおり、曹丕時代以来の重鎮であり、官途末期は「引退させてくださいマジで」ってずっと懇願してたにも拘らず引退させてもらえなかった人。ご意見番として重く見られてたんでしょうね。なのにこのやり取りですか……怖いのう。

皋陶
鍾会(しょうかい)さんのところで出てきた(ぎょう)時代の名裁判官ですな。こっちの名称の方が一般的だそうで。
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