韓伯1  隠者范宣 

文字数 1,210文字

范宣(はんせん)が八歲のとき、家の裏庭で
薬草摘みに勤しんでいた。
ら、葉っぱで指を切る。

ピギュワー!
笵宣、泣きわめく。

そこに人が駆け寄り「痛いか?」と聞く。

すると范宣は答える。

「痛みなぞ、どうでも良いのです。
 ただ身體髮膚、毀傷せざるべし。
 それを守れなかったことが、
 口惜しいのです!」

幼い頃からこんな感じであったから、
聖者となるべく苦行をしているのでは、
レベルの禁欲ぶりだった。

そんな范宣に、韓伯が絹の反物を送る。
百匹。雑に言うと9.5km位の長さ。
当然のように范宣、受け取らない。

そこから韓伯が絹を
半減、半減とさせていったが、
結局范宣は受け取らなかった。

後日、そんな韓伯と范宣が
同じ車に乗り合わせる。
これは逃げられない。

すると韓伯、絹織物から
6メートルほどを切り取り、
范宣に押し付ける。

「いくらそなたでも、
 ご婦人の下着くらいは
 用意すべきであろう?」

そういわれてしまえば、
さすがの范宣も笑うしかない。
その絹織物を受け取るのだった。


范宣というひとは、
とにかく隠者思考だったようである。

公職につこうとは一切せず、
役所になど一度も
足を運んだことがないありさま。

あるとき韓伯、策略を講じ、
范宣を役所に向かう車に載せた。

さあ観念しろ、一緒に役所で働こうぜ。
そんな感じの、韓伯の勧誘だ。

っが、それに気づいた范宣。

すばやく車から飛び降り、
逃走してしまったとさ。



范宣年八歲,後園挑菜,誤傷指,大啼。人問:「痛邪?」答曰:「非為痛,身體髮膚,不敢毀傷,是以啼耳!」宣潔行廉約,韓豫章遺絹百匹,不受。減五十匹,復不受。如是減半,遂至一匹,既終不受。韓後與范同載,就車中裂二丈與范,云:「人寧可使婦無(巾軍)邪?」范笑而受之。
范宣の年八歲なるに、後園にて菜に挑み、誤りて指を傷つけ、大いに啼く。人の:「痛きや?」と問うに、答えて曰く:「痛きを為したるに非ず。身體髮膚、敢えて毀傷せざるべからば、是を以て啼きたるのみ!」と。宣は潔行廉約、韓豫章は絹百匹を遺れど、受けず。五十匹に減ぜど、復たも受けず。是くの如くして半ばに減じ、遂に一匹に至れど、既にして終に受けず。韓は後に范と同載せるに、車中に就きて二丈を裂きて范に與え、云えらく:「人は寧んぞ婦をして(巾軍)無からしむべからんや?」と。范は笑いて之を受く。
(德行38)

范宣未嘗入公門。韓康伯與同載,遂誘俱入郡。范便於車後趨下。
范宣は未だ嘗て公門に入らず。韓康伯は與に同載し、遂には俱に入郡せんと誘う。范は便ち車後に趨下す。
(棲逸14)



身體髮膚,不敢毀傷
孝経に載る文言。「身體髮膚,受之父母,不敢毀傷,孝之始也」が原文で、己の身体は髪の毛に至るまで父母からの賜りものなので、これを決して傷つけないことが孝行なのだ、と説かれている。さかしらなガキ、といいたいところではあるが、こいつは孝経の一行め。存在さえ知っていれば大体の人間が暗証できるレベルの文言であるため、まぁ、変に感心しすぎる必要もない。
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