山濤5  武を収め文を修む

文字数 944文字

()を倒し、遂に天下が収まった!

そこで武帝(ぶてい)さま、訓練場に
文武百官を集める。
そして彼らに向け、おん自ら宣言された。

「天下は収まった! ここからは、
 武を収め、文に修心すべきである」

それを聞いた山濤(さんとう)
いやそれまずくね? って思った。
なので他の文官たちと、
孫子(そんし)呉子(ごし)の兵法について語り合った。

山濤自身は兵法にそれほど詳しくない。
しかし彼らと議論を重ねるうちに、
その主張は精緻を極めるようになった。

「すげえな、山濤」

みんながそう感心する。

さて、そこから時が下れば、
八王(はちおう)の乱は起こるわ、永嘉(えいか)の乱は起こるわ。
武帝さまのあの宣言のせいで、
諸侯の防備はお粗末なものだった。
なので、あっという間に
匈奴漢(きょうどかん)に飲み込まれた。

あぁ、
山濤の危惧したとおりになってしまった。
人々は後悔したが、既に遅い。

山濤は、孫呉の兵法を読むまでもなく、
国防の極意について直感していたのだ。

永嘉の乱のさなか、王衍(おうえん)もまた、
石勒(せきろく)に追われる中で、詠嘆する。

「山濤様は、闇夜の中にあっても
 道を踏み外されることはなかったのだな」



晉武帝講武於宣武場、帝欲偃武修文、親自臨幸、悉召群臣。山公謂不宜爾、因與諸尚書言孫、吳用兵本意。遂究論、舉坐無不咨嗟。皆曰:「山少傅乃天下名言。」後諸王驕汰、輕遘禍難、於是寇盜處處蟻合、郡國多以無備、不能制服、遂漸熾盛、皆如公言。時人以謂山濤不學孫、吳、而闇與之理會。王夷甫亦嘆云:「公闇與道合。」

晉の武帝の宣武場にて武を講ぜるに、帝は武を偃せ文を修むるを欲し、親しく自ら臨幸し、悉く群臣を召す。山公は爾れ宜しからずと謂い、因りて諸尚書と孫、吳の用兵の本意を言う。遂に論の究むるに、坐を舉げて咨嗟せざる無からず。皆は曰く:「山少傅は乃ち天下の名言なり」と。後に諸王は驕汰となり、禍難を輕遘し、是に於いて寇盜は處處に蟻のごとく合し、郡國の多きは以て備うる無く、制服せる能わず、遂には漸く熾盛せば、皆な公が言の如し。時の人は以謂えらく「山濤は孫、吳、を學ばずとも闇に之を理會せり」と。王夷甫も亦た嘆じて云えらく:「公は闇に道と合せり」と。

(識鑒4)



※あーなるほど、この論が出ちゃえば武帝さま sage 喰らいまくるわな。実際の武帝さまがどうであったかはともかく、世説新語におけるポジショニングとしては大いに納得致しました。
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