謝安19 捻鼻
文字数 455文字
「外遊なさった時に口ずさまれる歌は、
決して高らかなものではない。
ただし、静かに座し詩吟をなされば、
その鼻にかかったような歌声と、
それとなく周辺に振り撒かれる眼差し。
その振る舞いは、山沢に寓居し、
心やすんじておられるかの如き心地を
お示しになるのだ」
謝車騎道謝公:「遊肆復無乃高唱,但恭坐捻鼻顧睞,便自有寢處山澤閒儀。」
謝車騎は謝公を道えらく:「肆に遊びたるに復た乃ち高らかに唱うは無かりせど、但だ恭しく坐して鼻を捻じり睞を顧み、便ち自ら山澤の閒に處し寢ずるの儀有り」と。
(容止36)
捻鼻
謝安さま、鼻が悪かったらしい。それで、少し声の通りが悪かった。
が、それを逆手に取り、詩吟における技法として確立した。誰もがそれを真似しようとしたが、そうそう真似出来たもんじゃない。敢えて真似をするとしたら、自分の手で鼻をつまみ、少し捻らなきゃならなかった、と言う。
素敵な歌い方を真似したいからとは言え、士大夫が自分の鼻を曲げてる姿を想像すると、なかなかにシュールである。