殷仲堪5 殷仲堪、涙す

文字数 925文字

殷仲堪(いんちゅうかん)の従兄、殷覬(いんぎ)が重病に陥った。
人を見ても、その顔半分しか見えない、
と言う状態になってしまっている。

この時殷仲堪、王恭(おうきょう)らとともに
中央で好き勝手やっている王国宝(おうこくほう)
討ち果たさん、と挙兵。

出立の前に、いとこ殿の顔を
見にやってきた。

もしかしたら、これが
今生の別れとなるのかもしれない。
そう思うと、殷仲堪の目に、
つい涙が浮かぶ。
そして泣きながら殷覬に向け、
良く養生するように、と言った。

それを聞き、殷覬は言う。

「おれの病は間もなく癒えるだろう。

 だがお前のその、身の程知らずにも
 国家の大事にのこのこと
 首を差し出すような振る舞いは、
 まさに度し難き病、
 と言うより他ないな!」


殷仲堪、結構よく泣かされている。

父の殷師(いんし)は胸の動悸が
ひどくなる病気にかかった。
そのせいで床で蟻が動いただけでも、
闘牛の音に聞こえてしまったという。

あっはは、変な症状ー!
孝武帝(こうぶてい)陛下、
この話がおかしくて仕方がない。
なので殷仲堪に対して、
うっかりこの話を振ってしまった。

「おい、そういやお前の一門で、
 針小棒大な耳に
 なっちまったやつがいるって?」

突然のパパディス。
ナメてんのかこのクソガキ。

殷仲堪、滂沱しながら立ち上がる。

「っわ、わたくしの進退、
 ここに窮まりました!」



殷覬病困,看人政見半面。殷荊州興晉陽之甲,往與覬別,涕零,屬以消息所患。覬答曰:「我病自當差,正憂汝患耳!」
殷覬の病の困ぜるに、人を看るに政に半面を見る。殷荊州は晉陽の甲を興さんとせるに、往きて覬と別るるに、涕零し、以て患ぜる所の消息を屬す。覬は答えて曰く:「我が病は自ら當に差えん、正に憂うは汝が患いなるのみ!」と。
(規箴23)

殷仲堪父病虛悸,聞床下蟻動,謂是牛鬥。孝武不知是殷公,問仲堪「有一殷,病如此不?」仲堪流涕而起曰:「臣進退唯谷。」
殷仲堪が父が病は虛悸にして、床下の蟻の動きたるを聞かば、是れ牛鬥と謂ゆ。孝武は是を殷公と知らず、仲堪に問うらく「有る一殷の病、此くの如きなりや不や?」と。仲堪は流涕し起ちて曰く:「臣が進退、唯だ谷まりたり」と。
(紕漏6)



晉陽の甲
春秋晋の趙鞅が君側の奸を取り除くために決起した時のことを言うそーである。

殷覬
殷仲文の兄。これ殷顗と同一人物なんじゃないのかなあ、よくわからん。
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