桓温35 魚

文字数 778文字

桓温(かんおん)さまが南蛮校尉(なんばんこうい)
つまり東晋(とうしん)西部エリアの
異民族征討責任者に任ぜられたとき、
郝隆(かくりゅう)はその職掌における補佐官として
任用されていた。

三月三日の会。
一年の不祥を清流で注ぎ落し、
その年の活躍を祈念する会である。
ここで、桓温さまは命じる。

「詩を詠め。
 できなかったヤツは罰ゲームな。
 酒1リットルの刑」

見事に詠み損じた郝隆、
1リットルを飲まされたら、
即座に筆を執った。

Peixe(ペイシ)、清池に躍る」



桓温さま、きょとんとして問う。

「ペイ……なに?」

郝隆が憮然と答える。

南蛮(・・)では魚のことを peixe と言います」

おいおい、桓温さまがツッコむ。

「詩を詠め、っつってんだよ。
 南蛮(・・)語なんて相応しくねえだろうが」

そしたら郝隆、こう返した。

「はるばる荊州(けいしゅう)の片田舎まで
 連れ出されたと思えば、
 そこでの役職が蛮族の相手。
 しかもこうして野蛮な遊びに
 付き合わされる。

 こんなん、詩にだって南蛮(・・)語を
 取り入れでもしなきゃ
 やってらんねっすよ」



郝隆為桓公南蠻參軍。三月三日會、作詩不能者罰酒三升。隆初以不能、受罰。既飲、攬筆便作一句云:「娵隅躍清池。」桓問:「娵隅是何物?」答曰:「蠻名魚為娵隅。」桓公曰:「作詩何以作蠻語?」隆曰:「千里投公、始得蠻府參軍。那得不作蠻語也?」

郝隆は桓公の南蠻參軍と為る。三月三日の會、詩を作す能わざる者は酒三升を罰とす。隆は初め能わざるを以て罰を受く。既に飲みたれば、筆を攬りて便ち一句を作して云えらく「娵隅は清池に躍る」と。桓は問うらく「娵隅は是れ何ぞの物か?」と。答えて曰く「蠻は魚の名を娵隅と為す」と。桓公は曰く「詩を作すに何をか以て蠻語にて作さるや?」と。隆は曰く「千里を公に投じ、始めて蠻府の參軍を得たり。那んぞ蠻語にて作さざるを得んや?」と。

(排調35)



目加田センセーのご本では
罰ゲームが「酒三斗」となっていた。
おま、一斗=十升ですよ……
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