卞範之  大逆人の幕僚

文字数 1,334文字

桓玄(かんげん)荊州(けいしゅう)での権勢を強めていく時、
従兄の桓亮(かんりょう)が、あわせて衡陽(こうよう)で決起。
この騒動で、韓繪之(かんかいし)と言う人が殺された。

この韓繪之、衡陽太守に任じられたため、
祖母の(いん)氏と共に、衡陽に出向いている。

そこに向かう途中、二人は、
闔廬(こうろ)洲という場所で、偶然桓玄と、
その子飼いである卞範之(べんはんし)に出会っていた。

なお卞範之の母は、韓繪之の父の妹。
つまり殷氏にとっては孫である。

祖母に挨拶をしに現れた卞範之。
その顔を見ると、殷氏は嘆息する。

「なまじ私が死に損なったせいで、
 伯、範之と二代にわたり、
 自分の子孫が桓温(かんおん)、桓玄のような
 逆賊に仕えるのを見なければ
 ならないなんてねえ」

韓繪之の父、韓伯(かんはく)は桓温の属僚。
殷氏にしてみれば、
息子や孫が桓氏に従っているのが、
嘆かわしい事であったのだろう。

そんな彼女の嘆きは、
韓繪之の死という最悪の形で
結果として現れてしまった。

殷氏は韓繪之の遺骸を撫でながら、
慟哭した。

「お前の父は、豫章(よしょう)を解任されるや、
 その日のうちに任地から離れました。

 けれどもお前は、任期を終えて数年、
 それでもぐずぐずとこの地に
 留まったままでいた。
 そして、遂には殺されてしまった。

 とは言え、こうして殺されてしまえば、
 今さらお前に、何を言えるでしょう!」

 

韓康伯母殷、隨孫繪之、之衡陽。於闔廬洲中、逢桓南郡。卞鞠是其外孫。時來問訊謂鞠曰:「我不死、見此豎二世作賊!」在衡陽數年、繪之遇桓景真之難也、殷撫屍哭曰:「汝父昔罷豫章、徵書朝至、夕發。汝去郡邑數年、為物不得動遂及於難!夫復何言?」

韓康伯の母の殷は、孫の繪之に隨いて衡陽に之かんとす。闔廬洲の中にて桓南郡に逢う。卞鞠は是れ其の外孫なり。時にして來たるれば、鞠に問訊す。謂いて曰く「我死なざれば、此の豎の二世にして賊に作さるを見る」と。衡陽に在ること數年、繪之は桓景真の難に遇いたり。殷は屍を撫し、哭して曰く「汝が父、昔に豫章を罷めたるに、徵書の朝に至るれば夕には發す。汝は郡邑を去れるに數年、物が為に動かるるを得ざるれば、遂に難の及びたるなり。夫れ復た何をか言わんか?」と。

(賢媛32)



韓伯
どっちかってと庾亮殷浩系の人材。とは言えかなりしなやかな立ち振る舞いをした人であった。丹陽尹みたいな重要ポストに就いていて、将来をだいぶ嘱望されていた感じではあるのだが、九卿である太常の地位に就く前に亡くなった。

韓繪之
韓璯と書かれていることが多い。あとのことはよくわかんない。なぜ任期後もその地にとどまっていたのか、って情報、どっかに転がってるかなあ。

卞範之
桓玄の太鼓持ちの一人。その中でもトップクラスではあるのだが、とりあえず晋書宋書は基本的に桓玄を腐しまくるので、自動的にその子分Aもひどい人物である、と書かれている。落ちのびる桓玄に最後まで付き従ったそうなので、きっとそれなりの人物ではあると思うんですけどね。

桓亮
自分は日本でも有数の桓氏について知ってるマンのはずだが(そもそも興味もつ人が少ない)、ここで初めて聞きましたよ彼の名前。父親の桓済はこないだ登場した桓熙と共に桓冲を妬んで殺そうとした人。しっかし長男次男とクソとか、桓温さまも地獄ですのぅ……。



もう若干含意がある臭いけど、それは韓伯についてもうちょい調べが進んでからだなー。
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