司馬道子1 月影さやかに

文字数 615文字

司馬道子(しばどうし)が書斎に佇んでいると、
夜空に月が浮かんでいるのが見えた。

澄み渡った空の中、輝く。
翳り一つすら、そこにはない。

これは良いものだ、
司馬道子が感嘆すると、
同席していた謝重(しゃちょう)が言う。

「私は、やや陰りを帯びていたほうが
 素晴らしいと思います」

ふふ、お前ねえ。
司馬道子、謝重をからかうのだ。

「それは、君の心に
 陰りがあるからではないかね?

 どうしてわざわざこの美しい空を、
 汚さねばならんのだ」



司馬太傅齋中夜坐,于時天月明淨,都無纖翳。太傅歎以為佳。謝景重在坐,答曰:「意謂乃不如微雲點綴。」太傅因戲謝曰:「卿居心不淨,乃復強欲滓穢太清邪?」

司馬太傅の齋中に夜坐せるに、時に天月明淨、都べて纖翳無し。太傅は歎じ以て佳と為す。謝景重の坐に在りて、答えて曰く:「意えて謂えらく、乃ち微雲點綴なるに如かずと」と。太傅は因りて謝に戲れて曰く:「卿は心に淨ならざるを居さん、乃ち復た強いて滓穢を太清に欲さんや?」と。

(言語98)



司馬道子
孝武帝の弟。はじめ兄貴と一緒に皇族の権威を高めようとしていたフシがあったのだが、だんだん仲違いするようになった。そして乱脈に走り、孫恩(そんおん)の乱を招く。わりと東晋にとどめを刺した人と言っていい。

謝重
謝安(しゃあん)ブラザーズ((えき)(きょ)(あん)(せき)(まん)(てつ))のうち目立たない二番目の孫。わりと名声を博したとのことだが、別に政治史的には特に目立たない。ついでに言うとこの人の息子が謝晦(しゃかい)で、劉裕(りゅうゆう)の側近としてぶいぶい言わせた挙げ句反逆者として殺された。
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