褚裒5 お前は司馬遷か
文字数 650文字
だが、その刊行が、やけに遅い。
なので
「そなたの史書は、
いつ出来上がるのかね?」
孫盛、答える。
「いや、書き終わってはいるのだ。
だが公務にバタバタとし、
発表の時間が取れぬまま
こんにちに至ってしまってな」
すると褚裒は言う。
「何を言っているのだ、
記録するのみ、語らない、
そう言っていただろう。
それともそなた、
薄暗い部屋で、何かの情動に囚われねば
書き遂げられもせんのかね?」
褚季野問孫盛:「卿國史何當成?」孫云:「久應竟,在公無暇,故至今日。」褚曰:「古人『述而不作』,何必在蠶室中?」
褚季野は孫盛に問うらく:「卿が國史は何ぞ當に成らんか?」と。孫は云えらく:「久應にして竟われど、公に在り暇無からば、故に今日に至りたり」と。褚は曰く:「古人は『述せど作さず』と、何ぞ必ずしも蠶室が中に在らんか?」と。
(排調25)
述而不作
孔子の言葉。歴史記述とは先人の振る舞いや発言を端的に紹介すべきであり、そこに自分の意見をうかつに差し挟むものではない、という考え方。歴史著述における一つのスタンスになっている。
蠶室
蚕を飼うような、風通しのない部屋。ここに宮刑を食らった司馬遷が閉じ込められた。そして史記を書き上げた、という。まーあれか、天道是か否かみたいなもんをぶつけてねえでさらっと事実だけを列挙してとっとと発表しろよ、みたいな感じかねえ。割とこの感じだと、司馬遷のスタンスは必ずしも東晋〜劉宋期には称えられてはいなかったっぽい。