殷浩2  謝尚に説く

文字数 562文字

謝尚(しゃしょう)が若かった頃、
殷浩(いんこう)さんの評判を耳にしていた。

三つ上のその人は、
めっちゃ清談がすげえ、と有名だった。

出会うと殷浩さん、挨拶もそこそこに
早速様々な議論のテーマを提示。
しかもいきなり数百語。速い。
好きなモノ語りするオタクか。
まぁオタクだな。

とは言えどのテーマも優れていたし、
何にも増して、その表現の豊かなこと!

あっちゅう間に謝尚も夢中になる。
一切を聞き逃すまいぞと
食い入って聞く謝尚。
知らず知らずのうちに、
その顔に汗が伝っていた。

すると殷浩さん、ふと語りを止め、
周辺の人に声を掛けた。

「誰か、手ぬぐいで
 謝どのの顔を拭ってくれんかね?」



 
謝鎮西少時,聞殷浩能清言,故往造之。殷未過有所通,為謝標榜諸義,作數百語。既有佳致,兼辭條豐蔚,甚足以動心駭聽。謝注神傾意,不覺流汗交面。殷徐語左右:「取手巾與謝郎拭面。」

謝鎮西の少き時、殷浩の清言を能くせるを聞き、故に往きて之に造る。殷は未だ過つて通ずる所を有さざれど、謝に諸義を標榜せるを為し、數百語を作す。既に佳なる致を有し、兼ねて辭條の豐蔚たれば、甚だ以て動心駭聽せるに足る。謝は神を注ぎ意を傾け、覺えずして流るる汗を面に交う。殷は徐に左右に語るらく:「手巾を取りて謝郎に與え面を拭くべし」と。

(文學28)



やだ殷浩さんジェントル……。

殷浩さんがものすっげえ強キャラ感出してて笑う。
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