陸雲2  龍と鶴

文字数 1,036文字

荀陰(じゅんいん)陸雲(りくうん)の二人に面識はなかったが、
これを張華(ちょうか)さんが引き合わせる。

「二人に会話してもらうのだがね。
 二人とも文人として素晴らしい。
 ならば、ありきたりの言葉でなど
 会話をしないでくれたまえよ」

お茶目オヤジですねー張華さん。

先手は、陸雲。

雲間(うんかん)出身。なので龍として
 雲の間を駆け抜けます。陸雲です」

後手は、荀陰。

「太陽の下で、鶴が鳴いています。
 荀陰です」

あらあら、と陸雲は言う。

「雲間から白い雉が見えているのです。
 なにゆえ弓をつがえ、撃たないのですか」
 ↓
「荀陰さん、弾幕薄くないですか。
 こちらが出身地と字と諱を掛けて
 ネタフリしてるんですから、
 うまうまと飛び込んできてくださいよ」

すると荀陰、返すよ。

「龍とはとても雄々しく、
 強いものだと聞いておりましたのにね。
 実際に見えたのは鹿でしたよ。
 鹿を撃つに、私の弩は強すぎます。
 なので、撃つのを躊躇ったのです」
 ↓
「おやおや、ネタフリだったんですね。
 陸子龍ともあれば、どぎついネタ
 ぶっ込んでくるのでは、と構えましたが、
 いざ蓋を開けてみれば、どうでしょう。
 あんまりにもチョロいネタ過ぎて
 どうしようかと思いましたよ。
 できれば、もう少しまともなネタを
 振ってくださいませんかね?」

それを聞いて張華さん、爆笑であった。

ちなみに、この席において、
ずっと陸雲は荀陰に
やり込められっぱなしだったとか。



荀鳴鶴、陸士龍二人未相識,俱會張茂先坐。張令共語。以其並有大才,可勿作常語。陸舉手曰:「雲間陸士龍。」荀答曰:「日下荀鳴鶴。」陸曰:「既開青雲覩白雉,何不張爾弓,布爾矢?」荀答曰:「本謂雲龍騤騤,定是山鹿野麋。獸弱弩彊,是以發遲。」張乃撫掌大笑。

荀鳴鶴、陸士龍の二人は未だ相い識らず,俱に張茂先が坐にて會う。張は令し共に語らしむ。其の並べて大才有れるを以て、常語を作す勿るべしとす。陸は手を舉げて曰く:「雲間の陸士龍なり」と。荀は答えて曰く:「日下の荀鳴鶴なり」と。陸は曰く:「既にして青雲の開くれば白雉を覩む、何んぞ爾は弓を張らずして、爾は矢を布かんか?」と。荀は答えて曰く:「本より雲龍は騤騤なりと謂いたるに、定めし是れ山鹿野麋たるか。獸は弱く弩は彊し,是を以て發せるを遲る」と。張は乃ち掌を撫し大いに笑う。

(排調9)



荀陰
潁川(えいせん)荀氏。まー荀彧(じゅんいく)のご親類祭りですね世説新語。つーかこれ、例によって更に韻律的な埋め込みもして来てんだろ。()()()()()で踏んできてるし。ただ、両者の文字数が合ってないから探るのキツい。
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