漢元帝1 亡国の王とは

文字数 1,032文字

京房(けいぼう)元帝(げんてい)が、先人の政を論じていた。
京房の提示したテーマは、こうだ。

幽王(ゆうおう)厲王(れいおう)は何故滅びたのでしょう?
 どのような人物を
 信任していたのでしょうか」

元帝は答える。

「任ぜられた人物は、王に対し
 忠心を抱いておらなんだのであろう」

ほほう。
京房、問いを進める。

「不忠なる人物を、
 何故王らは採用したのでしょう?」

元帝は言う。

「幽王、厲王は、彼らを賢臣と見た。
 不忠の者であると知っていたら、
 果たして信任したであろうかな?」

京房、内心でニヤリとする。
が、それはおくびにも出さず、
深々と頭を下げた。

「我らが古人に見るようなことを、
 後進が我らに見出さねば良いのですが」



京房與漢元帝共論,因問帝:「幽、厲之君何以亡?所任何人?」答曰:「其任人不忠。」房曰:「知不忠而任之,何邪?」曰:「亡國之君,各賢其臣,豈知不忠而任之?」房稽首曰:「將恐今之視古,亦猶後之視今也。」

京房と漢元帝は共に論じ、因りて帝に問うらく:「幽、厲の君は何ぞを以て亡びしかか? 任ぜる所は何ぞの人たりや?」と。答えて曰く:「其の任ぜらる人は忠ならざればなり」と。房は曰く:「忠ならざるを知りて之を任せるとは、何ぞや?」と。曰く:「亡國の君は各おの其の臣は賢なりとす。豈に忠ならずを知りて之を任したるか?」と。房は稽首して曰く:「將に恐るらくは今の古を視たるを、亦た猶お後の今を視たるなり」と。

(規箴2)



元帝
先代の宣帝(せんてい)が安定化させた漢の体制を盛大に揺さぶって王莽(おうもう)の簒奪に繋がるルートを確保した、と言われるおひと。まぁ何と言うか、これきっと劉義隆(りゅうぎりゅう)の周りにいる佞臣枠のひと、つまり劉義康(りゅうぎこう)とか劉湛(りゅうたん)とかのこと想定しながら書いてるよねチーム世説新語。

京房
劉向(りゅうしょう)とか郭璞(かくはく)辺りと同じ使われ方する人。要するに予言を言わせるのにとても便利。ここでも「元帝が京房の言葉をしっかり聞き入れていたらあんなことにはならなかったろうに」と言うニュアンスを盛大にまき散らしている。

幽王、厲王
ともに西周の王。厲王がぐちゃぐちゃにした西周の体制を、次代の「宣王(せんおう)」が立て直し、けど結局幽王が完全にぶっ壊したため周は東遷、そこから各国の覇者たちがしのぎを削る春秋時代(しゅんじゅうじだい)に突入していく、……って待ってー! 元帝陛下、京房の野郎露骨に当てこすりに来てるじゃないですか始めっからァー! この二人にサンドイッチにされてる王の名前ご存知ないはずないですよねェー! ……などと、あからさまに後の時代の挿話でしかないものにマジレスをしてしまうぼくなのでした。

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