殷仲文4 老いたるエンジュ

文字数 670文字

桓玄(かんげん)の部下として重んぜられていた
殷仲文(いんちゅうぶん)であったが、建康(けんこう)での敗戦、
荊州(けいしゅう)への逃亡の中で桓玄を見限り、
劉裕(りゅうゆう)に投降。

その後殷仲文、
大司馬(だいしば)の咨議参軍となった。

大司馬、つまり、司馬徳文(しばとくぶん)だ。
安帝(あんてい)司馬徳宗(しばとくそう)の弟。
意思虚弱なる兄を支えて、
そのエージェント的な立場にいたっぽい人。

つまり、お飾りである。

劉裕に帰順した後は中枢で
バリバリやれると思っていた殷仲文、
宛がわれた閑職にがっくりする。

明らかに仕事にも集中力を欠き、
そこにはもはやかつての精彩はない。

さて、大司馬府の庁舎の前には、
一本の老いたえんじゅの樹がある。
その枝ぶりには、
もはやもの悲しささえある。

月初の大司馬府での会合に際し、
従僕らを連れた殷仲文、
えんじゅの老木をしばし眺めていた。

やがて、嘆じながら、言う。

「このえんじゅの枝葉の揺らぎ、
 もはや精気を感じられぬわな!」



桓玄敗後,殷仲文還為大司馬咨議,意似二三,非復往日。大司馬府聽前,有一老槐,甚扶疏。殷因月朔,與眾在聽,視槐良久,歎曰:「槐樹婆娑,無復生意!」

桓玄の敗せる後、殷仲文は還りて大司馬咨議と為り、意は二三に似、復た往日に非ず。大司馬府が聽の前に一なる老槐有り、甚だ扶疏たり。殷は月朔に因りて、眾と聽に在りて、槐を視ること良や久しく、歎じて曰く:「槐樹の婆娑なる、復た生意無し!」と。

(黜免8)



大司馬府に植えられているえんじゅであるから、それを大司馬・司馬徳文=司馬氏の命運に掛けたとも取れるし、殷仲文自身の命運に掛けた、とも取れる。まーなんつうか、そう言う感じの人だってのを感じ取ったから劉裕も重用しなかったんじゃないかなあ感はある。
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