孫策1  志は果たせず

文字数 925文字

桓温(かんおん)枋頭(ほうとう)の戦いで敗れた後のこと。

陳逵(ちんき)と言う人が長江(ちょうこう)のほとりの町、
歴陽(れきよう)の太守となっていた。
この人が長江を渡ってくるというので、
建康(けんこう)の人は歴陽の対岸にある渡し場、
牛渚(ぎゅうしょ)まで出向き、会合を開くのだった。

この陳逵と言う人、すっげえ弁が立つ。
この人と議論を交わして、
勝利できたらヒーローだ。
なので、みんなして
論戦を吹っ掛けようとする。

けど陳逵にしてみりゃ、
そんな気分にはなれない。

牛渚からは、古の英雄、
孫策が戦ったという雞籠(けいろう)山が見える。

「孫策も、志を遂げられなかったのだよな」

みんなが静まり返る。

結局会合の間、
誰も議論を吹っ掛けられなかった。



陳林道在西岸,都下諸人共要至牛渚會。陳理既佳,人欲共言折。陳以如意拄頰,望雞籠山嘆曰:「孫伯符志業不遂!」於是竟坐不得談。

陳林道の西岸に在すに、都下の諸人は共に要えんと牛渚に至りて會う。陳が理は既にして佳かれば、人は共に言を折らんと欲す。陳は如意を以て頰を拄げ、雞籠山を望み嘆じて曰く:「孫伯符が志業は遂げざらんか!」と。是に於いて竟に坐せるは談ずるを得ず。

(豪爽11)



陳逵
穎川(えいせん)陳氏(ちんし)の人。つまり陳羣(ちんぐん)の弟の子孫、となる。あんまり伝は残ってないが、名太守であったとのこと。冒頭であれだけ出てきた潁川陳氏は、東晋ともなるとこのひと以外、ほぼいない。栄枯盛衰。

孫策
こんな感じでしか出てきません。もう一話も似たようなノリです。
三国志の主役の一人ですね。孫堅(そんけん)の息子、孫権(そんけん)の兄。並外れたカリスマと武威でブイブイ言わせまくったが、北伐を仕掛けようとしたところ殺され、後事を孫権に託した。ちなみに歴陽を渡って牛渚に出るってルート、孫策が江南の群雄・劉繇(りゅうよう)を撃破し、覇道を駆け上ったルートでもある。


さて、原文にはどこにも桓温の話は出て来ない。のでここについて触れておく。豪爽編では、しばらく桓温さますげーを綴ったあとにこのエピソードをもってきてる。そして陳逵は桓温よりちょっと後の世代で、謝安(しゃあん)と比較される口の人(品藻59)。ってことは、桓温シンパが桓温の敗戦、もしくは桓温の逝去にショックを受けていて、お前らに構ってられる気分じゃねえんだよ、と振る舞っていた、と仮定ができそうなのだ。ほんにこの辺の解釈地獄がマゾゲーすぎて心地よいです……。
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