孔羣1  ウラミコツズイ

文字数 1,339文字

蘇峻(そしゅん)が乱を起こし、
建康(けんこう)を占拠したころのこと。
孔愉(こうゆ)孔羣(こうぐん)は、急ぎ建康に向かっていた。

その道すがら出会ったのは、
蘇峻の配下の一人、匡術(きょうじゅつ)
匡術は沢山の配下を連れていた。

ここで匡術、孔愉とは語るも、
孔羣のことはガンシカト。
目を合わせようともしない。

これにブチ切れた孔羣、つい口走る。

「鷹は狩りをしていないときは
 鳩のようにおとなしい、と言う。
 だが、他の鳥はそれでも
 鷹のその鋭い眼を恐れ嫌う。

 君のような猛禽の如き男にも、
 同じことが言えような」

今は孔愉と親しく話している風だが、
いつ牙を剥いてくるか
分かったもんじゃねえな、という事だ。

いきなりそんなこと言われりゃ、
匡術も切れる。
刀を抜き、孔羣に襲い掛かろうとする。

この事態を受けて孔愉、慌てて下車、
匡術に抱きつき、必死に抑え込んだ。

「孔羣の奴、気が触れたのだ!
 どうか私に免じて
 許してはくれまいか!」

これによって孔羣は命拾いした、のだが。


さて蘇峻の乱平定後、王導(おうどう)さま、
まぁいろいろあって匡術をお許しになる。

後日、ある宴席で孔羣と匡術が
同席することになった。
経緯を知っている参加者たち、
匡術に言う。孔羣に酌しろよ、と。

ついでに、恨み言も浴びて来い、と。
何だこのいじめ。

この場にあっては匡術も従うしかない。
すると孔羣、語り出す。

「昔、孔子(こうし)(きょう)の国の者に
 襲われたことがあったな。
 俺は孔子のような徳者じゃないのに、
 同じように匡のゆかりの者に
 殺されかけた。

 まったく、穏やかな日々が
 いくら鷹を鳩に変えるとて、
 その凶暴なる眼光を知る者であれば、
 当然忌避するよな、なあ!?」



孔車騎與中丞共行,在御道、逢匡術,賓從甚盛,因往與車騎共語。中丞初不視,直云:「鷹化為鳩,眾鳥猶惡其眼。」術大怒,便欲刃之。車騎下車,抱術曰:「族弟發狂,卿為我宥之!」始得全首領。
孔車騎と中丞は共に行き、御道に在りて匡術に逢う。賓從は甚だ盛んなり。因りて往き、車騎と共に語る。中丞は初にして視ず、直だ云えらく「鷹の化して鳩に為れど、眾鳥は猶お其の眼を惡む」と。術は大いに怒り、便ち之を刃さんと欲す。車騎は車を下り、術を抱きて曰く「族弟は狂を發す。卿、我が為に之を宥すべし」と。始めて首領を全うせるを得る。
(方正38)


蘇峻時,孔群在橫塘為匡術所逼。王丞相保存術,因眾坐戲語,令術勸酒,以釋橫塘之憾。群答曰:「德非孔子,厄同匡人。雖陽和布氣,鷹化為鳩,至於識者,猶憎其眼。」
蘇峻の時、孔群は橫塘に在り、匡術に逼らる所と為る。王丞相は術を保存す。眾の坐して戲れ語れるに因り、術をして酒を勸め、以て橫塘の憾みを釋かしむ。群は答えて曰く「德の孔子に非ざるに、厄は匡人に同じうす。陽の氣に和を布かしまば、鷹を化して鳩に為さしむと雖ど、識者にては猶お其の眼を憎むに至る」と。
(方正36)



孔羣
孔愉もそうなのだが、孔子の子孫。お酒大好きのクソ野郎。ちなみに世説新語はカットしてるが、晋書では孔羣と匡術の後段のやり取りを聞いて「王導が恥ずかしさのあまり縮こまった」と書いている。まあねえ……自業自得のくせにねえ。王導さまとしても寛容を示せよそれが仁者ってもんだろ、的振る舞いを期待してただろうに。

つーかなんでこれも排調じゃないんだ。いったいどう言う基準で方正なんだ。謎すぎる。
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