王導11 大清談大会

文字数 1,120文字

殷浩(いんこう)庾亮(ゆりょう)の副官に取り立てられた。

その殷浩、用事があって建康(けんこう)に出てくる。
これに反応したのは王導(おうどう)さまである。
「あの」殷浩がやってきた! これはもう、
清談バトルを挑むしかあるまい。

そんなもんなんですね。

王導さまはこのバトル会場に、
桓温(かんおん)王濛(おうもう)王述(おうじゅつ)謝尚(しゃしょう)も呼んだ。
そして王導さま自ら開幕の宣言。

「私は興奮しているよ。
 今日は君と共に道理を
 突き詰めてゆきたいものだ」

こうして始まる清談バトルは、
真夜中に至るまで続く。
王導さまと殷浩さん、
ガンガン論をぶつけ合う。
この応酬には、
ほとんどの人が関われなかった。

だが、やがて議論も収束した。
王導さまはこうコメント。

「ここまで語ってみても、
 まだ道理の淵源に達せた、
 とは言い難い。

 とは言え、その応酬における
 素晴らしき緊張感と来たら。

 正始(せいし)、つまり()曹芳(そうほう)の時代の、
 清談が立ち上がった頃にも、
 決して引けを取らなかった
 ことであろうよ」

清談バトルの終わった、翌朝。
参加していた桓温さま、
以下のようなコメントをしている。

「いや、昨晩の清談バトルやべえわ。
 丞相と殷浩パねえ。
 あの二人ほどじゃねえにせよ、
 謝尚もすごかったし、
 俺自身、得るところがあった。

 ただ、太原(たいげん)の二人はなー。
 あいつらどうよ。
 二人そろってチョコンとお座りして、
 引き取られたての子犬かよって言う」



殷中軍為庾公長史,下都,王丞相為之集,桓公、王長史、王藍田、謝鎮西並在。丞相自起解帳帶麈尾,語殷曰:「身今日當與君共談析理。」既共清言,遂達三更。丞相與殷共相往反,其餘諸賢,略無所關。既彼我相盡,丞相乃嘆曰:「向來語,乃竟未知理源所歸,至於辭喻不相負。正始之音,正當爾耳!」明旦,桓宣武語人曰:「昨夜聽殷、王清言甚佳,仁祖亦不寂寞,我亦時復造心,顧看兩王掾,輒翣如生母狗馨。」

殷中軍は庾公が長史と為る。都に下るに、之が為に王丞相は桓公、王長史、王藍田、謝鎮西を集め、並び在らしむ。丞相は自ら起ちて帳を解き、麈尾を帶びて殷に語りて曰く「身、今日當に君と共に理の析せるを談らん」と。既にして共に清言し遂に三更に達せるに、丞相と殷は共に相い往反し、其の餘の諸賢に略ぼ關わる所無し。既にして彼我は相い盡し、丞相は乃ち嘆じて曰く「向來の語は、乃ち竟に未だ理源の歸す所を知らず。辭喻の相い負かざるに至りては、正始の音、正に當に爾るべきのみ」と。明くる旦、桓宣武は人に語りて曰く「昨夜殷と王との清言を聽けるに、甚だ佳し。仁祖は亦た寂寞ならず。我れ亦た時に復た心に造れり。顧りて看るに、兩王掾は輒翣として生母狗の如し」と。

(文學22)



桓温さんの評価が、この席については

王導、殷浩
 ↓
謝尚、桓温
 ↓
王濛、王述(ともに太原王氏)

になってた感じですね。
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