066 アイオイ親方の尋問の物語(2)
文字数 1,886文字
砦造りを妨害して、ついでにカンサを追いだす。アイオイ親方とミブハヤトルは両方を狙うことにした。
ある朝、親方は一人で村をでようとする。
「どちらに行くのですか?」
当然カンサは呼びとめる。
「砦予定地を見にいくだけだよ。カンサくんは紙に数字を書いていればいい」
親方は企んでいるなと、カンサは思った。収穫高を計算し直した紙を投げ捨てて、カンサは親方を追いかける。またヤギが“うめえー”と紙を食べた。
*
このくだりはみんなにうけすぎて、サジーやツユクサなど腹を抱える者まで現れて、話はしばらく中断された。
「そろそろいいかな。さてカンサはアイオイ親方に尋ねた」
*
「何のために行くのですか?」
「だから見にいくだけさ」
途中で針子商人とかの話があるけど、時間がないから省略。ハシバミがイライラしているからね。……してない? それはそれは寛大な長だ。ヤイチゴ、拍手をありがとう。
さてさて一行は海に面した地へと到着した。高波で壊れた古い町で、はやくも奴隷が働かされていた。
「すでにグチャグチャの土地だな。ここに砦を作るのはしんどい仕事だ」
奴隷たちを見ながらつぶやく親方の言葉は真摯だった。
カンサも思わずうなずいてしまう。
「で、でも戦略的拠点です。頑丈で武装した港を作りなおせば、西と北がつながります」
「そのようなことを許すと思うか!」
いきなり声がした。「わしはデンキ様の子分のデンチ様じゃ。人間どもの再びの暴挙を許さぬ!」
現れた者はキモノを着て、人の力で押されたクルマの屋根に乗っていた。顔を昔の塗料で塗りたくり、見るからに恐ろしげな風貌だった。
「……ミブハヤトルさんですよね」
でもカンサは即座に正体を見抜いた。「悪だくみのつもりですか? すべて王子様に報告します」
デンチ様の真似をしていたミブハヤトルはぎくりとした。
天罰を恐れたカンサが西へと逃げて、その隙に工事できないほどに平地をグチャグチャにする作戦。それに親方のアイデアを加えた瞬間に失敗した。……アイデアって分かるよね。ひらめきみたいな意味。
「ミブハヤトルの変装がへたくそだからだ」
親方は上士頭のせいにする。「どうにもならない。みんなでぶっ壊そう」
よその町から来た奴隷に声かける。
同時に。
どかーんと雷がいくつも落ちて、砦は跡形もなくなった。
「デンキ様が味方になったぞ。さすがはアイオイ親方だ」
奴隷たちが歓声をあげた。彼らは自分たちの村へと去っていった。
「これはどうにもなりませんよ。僕は王子様に報告します」
何度も振り返りながら、カンサも西へと帰った。
「彼よりも、空の民のが早いでしょうけどね」
また雷に巻き込まれたミブハヤトルが、煤だらけの顔で笑う。
***
「カンサと空の民。両方の話が正反対過ぎる。そやさかい私は来た」
西の王子様がわざわざ西からお越しになった。「アイオイ。お前を尋問するためにな」
牛三頭と引き換えに王子様を裏切って砦を壊した空の民はいない。すでに彼らは空へと帰った。カンサだけがいた。
「わざわざ遠くからどうも」
言いながらも親方は不思議に思った。空の民の言葉を信じないのならば、カンサは監査なのだから、この青年の言葉がすべてのはずだ。砦を作る場所を破壊した村を滅ぼすために、王子様が軍隊を率いて現れてもおかしくない。……なるほど。王子様は俺を恐れだしている。
「アイオイ。貴様は村の収穫高をごまかしたのか? 港の砦に雷を落としたのか?」
「王子様。それはみんなカンサの嘘です。でもですね、そしたら王子様はカンサを処刑しますよね。だったら私が罰を受けます。王子の畑で一月タダ働きしますので、それで水に流してください。砦は海に流しちゃいましたけどね」
まず王子様は不思議そうな顔をした。それから。
「アイオイ。お前はぽろりと言ったぞ。やっぱりお前たちが砦を」
「王子様」
いきなりカンサが叫んだ。「私は嘘つきでした。空の民の話が事実です。お詫びにこの命を差しだします。なので、親方の村には危害を与えずにください」
西の王子様はカンサをしばらく見た。ついで親方を見た。
「空の民に奴隷たちにカンサ……。アイオイよ。お前はたらしこむのがうまいな」
王子様は怒りを堪えて、ほなさいならと西に帰られた。
「カンサを連れていかないのですか?」
また四六時中傍にいられたらたまらない。
「村に置いてくださいよ」
カンサが青い目で笑う。「これからはしっかり畑仕事をしますので。村人になります」
以上で話はおしまい。ハシバミ、ヤギがでてきただろ? あの動物だってアイオイ親方の仲間だ。さあ僕たちも働こうか。
ある朝、親方は一人で村をでようとする。
「どちらに行くのですか?」
当然カンサは呼びとめる。
「砦予定地を見にいくだけだよ。カンサくんは紙に数字を書いていればいい」
親方は企んでいるなと、カンサは思った。収穫高を計算し直した紙を投げ捨てて、カンサは親方を追いかける。またヤギが“うめえー”と紙を食べた。
*
このくだりはみんなにうけすぎて、サジーやツユクサなど腹を抱える者まで現れて、話はしばらく中断された。
「そろそろいいかな。さてカンサはアイオイ親方に尋ねた」
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「何のために行くのですか?」
「だから見にいくだけさ」
途中で針子商人とかの話があるけど、時間がないから省略。ハシバミがイライラしているからね。……してない? それはそれは寛大な長だ。ヤイチゴ、拍手をありがとう。
さてさて一行は海に面した地へと到着した。高波で壊れた古い町で、はやくも奴隷が働かされていた。
「すでにグチャグチャの土地だな。ここに砦を作るのはしんどい仕事だ」
奴隷たちを見ながらつぶやく親方の言葉は真摯だった。
カンサも思わずうなずいてしまう。
「で、でも戦略的拠点です。頑丈で武装した港を作りなおせば、西と北がつながります」
「そのようなことを許すと思うか!」
いきなり声がした。「わしはデンキ様の子分のデンチ様じゃ。人間どもの再びの暴挙を許さぬ!」
現れた者はキモノを着て、人の力で押されたクルマの屋根に乗っていた。顔を昔の塗料で塗りたくり、見るからに恐ろしげな風貌だった。
「……ミブハヤトルさんですよね」
でもカンサは即座に正体を見抜いた。「悪だくみのつもりですか? すべて王子様に報告します」
デンチ様の真似をしていたミブハヤトルはぎくりとした。
天罰を恐れたカンサが西へと逃げて、その隙に工事できないほどに平地をグチャグチャにする作戦。それに親方のアイデアを加えた瞬間に失敗した。……アイデアって分かるよね。ひらめきみたいな意味。
「ミブハヤトルの変装がへたくそだからだ」
親方は上士頭のせいにする。「どうにもならない。みんなでぶっ壊そう」
よその町から来た奴隷に声かける。
同時に。
どかーんと雷がいくつも落ちて、砦は跡形もなくなった。
「デンキ様が味方になったぞ。さすがはアイオイ親方だ」
奴隷たちが歓声をあげた。彼らは自分たちの村へと去っていった。
「これはどうにもなりませんよ。僕は王子様に報告します」
何度も振り返りながら、カンサも西へと帰った。
「彼よりも、空の民のが早いでしょうけどね」
また雷に巻き込まれたミブハヤトルが、煤だらけの顔で笑う。
***
「カンサと空の民。両方の話が正反対過ぎる。そやさかい私は来た」
西の王子様がわざわざ西からお越しになった。「アイオイ。お前を尋問するためにな」
牛三頭と引き換えに王子様を裏切って砦を壊した空の民はいない。すでに彼らは空へと帰った。カンサだけがいた。
「わざわざ遠くからどうも」
言いながらも親方は不思議に思った。空の民の言葉を信じないのならば、カンサは監査なのだから、この青年の言葉がすべてのはずだ。砦を作る場所を破壊した村を滅ぼすために、王子様が軍隊を率いて現れてもおかしくない。……なるほど。王子様は俺を恐れだしている。
「アイオイ。貴様は村の収穫高をごまかしたのか? 港の砦に雷を落としたのか?」
「王子様。それはみんなカンサの嘘です。でもですね、そしたら王子様はカンサを処刑しますよね。だったら私が罰を受けます。王子の畑で一月タダ働きしますので、それで水に流してください。砦は海に流しちゃいましたけどね」
まず王子様は不思議そうな顔をした。それから。
「アイオイ。お前はぽろりと言ったぞ。やっぱりお前たちが砦を」
「王子様」
いきなりカンサが叫んだ。「私は嘘つきでした。空の民の話が事実です。お詫びにこの命を差しだします。なので、親方の村には危害を与えずにください」
西の王子様はカンサをしばらく見た。ついで親方を見た。
「空の民に奴隷たちにカンサ……。アイオイよ。お前はたらしこむのがうまいな」
王子様は怒りを堪えて、ほなさいならと西に帰られた。
「カンサを連れていかないのですか?」
また四六時中傍にいられたらたまらない。
「村に置いてくださいよ」
カンサが青い目で笑う。「これからはしっかり畑仕事をしますので。村人になります」
以上で話はおしまい。ハシバミ、ヤギがでてきただろ? あの動物だってアイオイ親方の仲間だ。さあ僕たちも働こうか。