014 最初の障壁
文字数 1,940文字
翌朝明るくなったところで、十一人はドライブイン駐車場の跡地で荷物をひろげる。
竹製やペットボトルの加工など様々だが、水筒は当然各自が持っていた。草鞋の替えも全員がある。斧、裁縫具、秘伝の膏薬に丸薬などもある。何よりクロイミも麦や野菜の種子を持ってきた。
「僕のと合わせると、畑が300平米は必要だね」
ハシバミが微笑む。若衆の畑の種子の管理はリーダーがしているのだから、持ちだすのは容易かった。
荷物を手早く分配して、干し肉も分ける。踏み跡から沢へと降り、銘々が水をくんだり顔を洗ったりする。踏み跡は上流に続いていた。
「この沢は大きい川と合流する」カツラが言う。「村の川より流れが激しい。でも橋が残っているというか作り直された」
「そこまでは急ごう。よいしょっと」
シロガネがはみ出るほどに満載された竹籠を背負う。
日の出から三十分後。二人を先頭に上流を目ざす。
鍬も鎌も無かったことに、ハシバミは気づいていた。新天地を見つけても、開墾作業どころではない。昔の村でもあって、さらに農具が残っていればいいのだけど、どうせ朽ちたクルマだけだろう。でも、クルマのドアを加工すればしっかりしたものが作れるかも。
どっちにしろ、それらは先の話だ。一年以上は狩猟採集がメインだ。だからこそ楽天的に行こう。
***
キセキレイが道案内のように飛んでいた。一時間ほど歩いたところで、たどってきた沢は本流に合流した。川沿いに踏み跡はなおも続く。さらに三十分歩いたところで休憩とした。青空と雲。太陽が昇ってきた。ほど良い天気のままで終わって欲しい。
先行していたカツラとシロガネが戻ってくる。どちらも浮かない顔だ。
「橋が流されていた」カツラが言う。
「五日ほど前の物見の報告になかった。最近だと思う」
シロガネが座って、水を飲む。
「上士が先回りしたのかなあ」
「デブ、のんびり喋るな。道はこれが一番早いんだよ」
カツラがコウリンを怒鳴る。
「とにかく行ってみよう」
ハシバミが立ちあがる。シロガネも下ろしたばかりの荷を背負う。
*
踏み跡は、崖の手前を突きあげていた。草に覆われたアスファルトにでる。その道の残骸は川で消滅していたけど、橋げたが残っていた。そこへと丸太が二本かかっていて、昔の鎖で厳重過ぎるほどに縛られていた。川の途中まで。
「本来は反対側までつながっていた」
そう言ってシロガネがまた荷を下ろす。それに腰かける。
川幅は十メートルない。だけども、たしかに流れは速い。荷物を背負ってだと流される。
「ハシバミ。これは厄介だぜ。分かっているよな」
カツラが隣に来る。「お前がみんなを誘った。早々に通せんぼになると思っていたか? みんなは泣きを入れれば済むかもしれないが、俺とシロガネは村に戻れないぜ」
カツラは扱いにくいなと、ハシバミはうんざりした。たしかに力も勇気もある。でも、それを発揮できるのは方針が決まっている時だけのようだ。難局に直面すると動揺するだけだ。
ここまでみんなを導いてきたのは間違いなくカツラだ。なのに、行き先を見失って困惑しだしている。チームで一番の戦力の自信を取り戻させないと。
「カツラのおかげでここまで進めた。君がいなかったら犬にすら怯えて過ごしたかもしれない」
「人数がいれば連中は怖くない」
カツラが照れ隠しのように話す。「むしろ犬どもが人を恐れる。だが少人数で傷を負ったり疲れた者がいれば別だ。小さい子どもがいてもな。執拗に追い続けて、落伍者を群れで襲う」
「僕たちのことかな」
ゴセントとツユクサがやってきた。二人とも見るからに疲れている。このペースだものな。
アスファルトを越えていったサジーとツヅミグサが戻ってきた。踏み跡はしばらく川に沿って続いているらしい。
ツヅミグサは槍を杖代わりにしていた。はやくもみんなから疲労を感じる。本来はずっと屈強なはずなのに。
「ゴセント、どうしたらいいと思う」ハシバミは弟に尋ねる。
「僕たちはここで川を渡るべきだと思う」
しゃがみこんでいたゴセントが顔を上げる。「でも、僕とツユクサは泳ぐのは無理だと思う。疲れすぎている」
泳いで渡る? 僕たちが?
「僕だって荷物を投げださないと無理だ。アコンは泳ぎが下手だし」
ベロニカも木に寄りかかったままで言う。
「なんで川に沿って進まないの?」その隣でコウリンがぼやく。
ハシバミは対岸の数十メートル先を見る。林の向こうからヒバリが垂直に飛んだ。さえずりは川音で聞こえない。
あの鳥がいるのならば開 けていそうだ。大人数が通過した跡が絶えれば、おそらく村からの追手は諦めるか、上流を目ざす。僕たちが橋を破壊したと勘違いして憤りながら。
なのに渡れるはずがない。頭の中で堂々巡りが始まりそうだ。
竹製やペットボトルの加工など様々だが、水筒は当然各自が持っていた。草鞋の替えも全員がある。斧、裁縫具、秘伝の膏薬に丸薬などもある。何よりクロイミも麦や野菜の種子を持ってきた。
「僕のと合わせると、畑が300平米は必要だね」
ハシバミが微笑む。若衆の畑の種子の管理はリーダーがしているのだから、持ちだすのは容易かった。
荷物を手早く分配して、干し肉も分ける。踏み跡から沢へと降り、銘々が水をくんだり顔を洗ったりする。踏み跡は上流に続いていた。
「この沢は大きい川と合流する」カツラが言う。「村の川より流れが激しい。でも橋が残っているというか作り直された」
「そこまでは急ごう。よいしょっと」
シロガネがはみ出るほどに満載された竹籠を背負う。
日の出から三十分後。二人を先頭に上流を目ざす。
鍬も鎌も無かったことに、ハシバミは気づいていた。新天地を見つけても、開墾作業どころではない。昔の村でもあって、さらに農具が残っていればいいのだけど、どうせ朽ちたクルマだけだろう。でも、クルマのドアを加工すればしっかりしたものが作れるかも。
どっちにしろ、それらは先の話だ。一年以上は狩猟採集がメインだ。だからこそ楽天的に行こう。
***
キセキレイが道案内のように飛んでいた。一時間ほど歩いたところで、たどってきた沢は本流に合流した。川沿いに踏み跡はなおも続く。さらに三十分歩いたところで休憩とした。青空と雲。太陽が昇ってきた。ほど良い天気のままで終わって欲しい。
先行していたカツラとシロガネが戻ってくる。どちらも浮かない顔だ。
「橋が流されていた」カツラが言う。
「五日ほど前の物見の報告になかった。最近だと思う」
シロガネが座って、水を飲む。
「上士が先回りしたのかなあ」
「デブ、のんびり喋るな。道はこれが一番早いんだよ」
カツラがコウリンを怒鳴る。
「とにかく行ってみよう」
ハシバミが立ちあがる。シロガネも下ろしたばかりの荷を背負う。
*
踏み跡は、崖の手前を突きあげていた。草に覆われたアスファルトにでる。その道の残骸は川で消滅していたけど、橋げたが残っていた。そこへと丸太が二本かかっていて、昔の鎖で厳重過ぎるほどに縛られていた。川の途中まで。
「本来は反対側までつながっていた」
そう言ってシロガネがまた荷を下ろす。それに腰かける。
川幅は十メートルない。だけども、たしかに流れは速い。荷物を背負ってだと流される。
「ハシバミ。これは厄介だぜ。分かっているよな」
カツラが隣に来る。「お前がみんなを誘った。早々に通せんぼになると思っていたか? みんなは泣きを入れれば済むかもしれないが、俺とシロガネは村に戻れないぜ」
カツラは扱いにくいなと、ハシバミはうんざりした。たしかに力も勇気もある。でも、それを発揮できるのは方針が決まっている時だけのようだ。難局に直面すると動揺するだけだ。
ここまでみんなを導いてきたのは間違いなくカツラだ。なのに、行き先を見失って困惑しだしている。チームで一番の戦力の自信を取り戻させないと。
「カツラのおかげでここまで進めた。君がいなかったら犬にすら怯えて過ごしたかもしれない」
「人数がいれば連中は怖くない」
カツラが照れ隠しのように話す。「むしろ犬どもが人を恐れる。だが少人数で傷を負ったり疲れた者がいれば別だ。小さい子どもがいてもな。執拗に追い続けて、落伍者を群れで襲う」
「僕たちのことかな」
ゴセントとツユクサがやってきた。二人とも見るからに疲れている。このペースだものな。
アスファルトを越えていったサジーとツヅミグサが戻ってきた。踏み跡はしばらく川に沿って続いているらしい。
ツヅミグサは槍を杖代わりにしていた。はやくもみんなから疲労を感じる。本来はずっと屈強なはずなのに。
「ゴセント、どうしたらいいと思う」ハシバミは弟に尋ねる。
「僕たちはここで川を渡るべきだと思う」
しゃがみこんでいたゴセントが顔を上げる。「でも、僕とツユクサは泳ぐのは無理だと思う。疲れすぎている」
泳いで渡る? 僕たちが?
「僕だって荷物を投げださないと無理だ。アコンは泳ぎが下手だし」
ベロニカも木に寄りかかったままで言う。
「なんで川に沿って進まないの?」その隣でコウリンがぼやく。
ハシバミは対岸の数十メートル先を見る。林の向こうからヒバリが垂直に飛んだ。さえずりは川音で聞こえない。
あの鳥がいるのならば
なのに渡れるはずがない。頭の中で堂々巡りが始まりそうだ。