028 また豆をもらえるかも

文字数 1,851文字

「バオチュンファか。でかくて変わった奴だったな」

 サジーが鹿骨を煮込みながら言う。明日の朝のスープだ。麦も食べると多数決で決まっている。

「私たちが降りてきた山のせいかな、たしかにここは風の向きがころころ変わる。これでは屋根も意味がなさそうだ。……どうすべきだ? ハシバミ」
 シロガネが尋ねてくる。

 農協の屋外集積所の巨大な屋根は、風雨が強まるなり漏ればかりなのが発覚した。いきなり崩壊はないだろうけど、何か所からも滝のように落ちてくる。賑やかで自然と大声になる。

「シロガネはみんなとともに寝場所を探してくれないか。ゴセントとカツラとクロイミは僕と一緒にいて欲しい」

 ハシバミはサジーと火番を代わる。指名された三人が集まってくる。

「僕の考えはこうだよ」
 クロイミが座るなり話しだす。
「村に誘いこんで一網打尽にされるはあり得るかもしれない。でも襲おうとするならいくらでも機会はあった。食事中でもいいし、今から就寝中を狙うのはなおさらいい。ライデンボクだったら、僕たちがここに姿を見せて二組に――さらに三組に分かれた時点で個別に攻撃したかもな。疲れていたとはいえ不用心すぎた。
分からないことは、なんで僕たちを誘うのかだ。得体のしれない若い放浪者の集団だよ。ライデンボクだったら絶対に追いはらう。
ただ、この古い村跡が手つかずなのが意味するのは、その村はここよりも住みやすいのかもね」

「俺には分からん。降参だ」
 カツラが焚き火に板をくべりながら言う。炎に顔を照らされる。「でも俺はバオチュンファだかの村に行くのを恐れないぜ。騙し討ちをするつもりならば、それよりも汚い手を使ってやる。……歓待を受けるならば乗ってみるのもいいかな。また豆をもらえるかも」

「ゴセントは?」ハシバミが聞く。

「風が変わった。僕たちはここを立ち去るべきだと思う。今すぐに」
 ぽつりと言う。

「はあ?」とクロイミとカツラの声が重なった。

 ハシバミにしても呆れてしまった。今までいつも弟を頼ってきたが、ここぞで意味深で大げさなことを口にする。クロイミみたいな理詰めや、カツラの感情任せの言葉のが信頼できる。



「全員が横になれそうな廃墟があった。もちろん雨漏れと(かび)と腐臭はある」
 シロガネたちが戻ってきた。「それよりもバオ……チュンチュン、いやバオチュンファの村に行くかだ。奴のご先祖も、私やサジーと同じで他所から来たと思う。それが不気味だと言わないでくれ。明日の朝その村に行くのか、明るくなるなり逃げるのか、どうするかだけだ」

「あいつに騙す意図があって、俺たちが現れなかったら、来るのを怖がったと思うだろうな」
 ツヅミグサが言う。「あいつが正直者だったら、十一人もいるのに疑り深いこそこそ野郎だらけと思うだろうな」

「向こうの人数が分からないだろ」
 シロガネがツヅミグサに答える。「だが、少なくともあの男は一人で十一人の中に現れた」

 みんなはどうやら村を訪ねたいらしい。おもてなしを受けられると思ってないにしても、ここに居着くかもしれない僕たちに怯えて友好的に接そうとしている。そんな感じだろう。
 ゴセントの態度が不安だけど、多数決に従うのもあるべきだ。

「分かったよ、明るくなったら僕とカツラで行ってみる。雨が降っていようがね」
 ハシバミは言うけど。

「全員で堂々と行くべきだ。そうだよな、ツヅミグサ」
「シロガネの言うとおり。それよか寝床に移動しよう。雨がもっと強くなりそう」

 明朝は十一人でバオチュンファの村を訪ねることになった。向こうの意図は分からないが、彼らがハシバミたちと関わりたいのは間違いない。僕たちにしてもちょっとだけでも休息が欲しい。

 ***

 翌朝もしっかりした降りだった。鹿骨スープを平らげて出発の準備を終えた仲間を、ハシバミは観察する。
 一人だけ蓑を着たクロイミが道にでる。バオチュンファが去った向こうを興味深げに眺めている。
 戦いの予感にうずうずしたようなカツラがクロイミの肩を叩き歩きだす。シロガネが落ち着いた態度で後に続く。ツヅミグサは村に早く行きたくてたまらなさそうな歩きぶりだった。
 冷静なサジーは一番荷物が大きい。ツユクサはハシバミに張りついている。コウリンがようやく荷物を背負う。ベロニカとアコンは倍以上になった荷物に苦笑いを向けあっていた。
 ゴセントは濡れたスズメのようにしおれていた。

「元気だせよ」

 ハシバミは弟を追い立てる。槍を持って殿(しんがり)を歩く。肩には弓。リュックサックははち切れそうだ。はやくどこかに居着きたい。
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