076 梅雨の谷間
文字数 1,909文字
豪雨が二日続いた。川は彼らの基準でも濁流と化して釣りなどできず、狩りもできず、備蓄などない十人とお姫様は池の蛙で食いつなぐ。
晴れたら晴れたで焼かれるほどの暑さになる。
「奇跡的簡単に四人を見つけたけどルートがずれていた。上空から教えてやった」
キハルは一時間のフライトで戻ってくる。ヒイラギたちはじきに大きな道にでて、あとは嫌でもエブラハラに突き当たるそうだ。山に入れば見つけられないから、今日はもう飛ばないらしい。
トモがノネズミを捕まえて、ハシバミのもとに持ってきた。わざわざハチの巣までだ。
「お腹いっぱいだから長に捧げるみたいだね」
キハルが笑う。
「犬たちからの後ろ盾になってほしいのかな」
ハシバミも苦笑いするけど。
「顔を布で覆ってミカヅキに乗るべきかも」
隣にいたクロイミが言う。
「どうせ私は南の平野ほどに真っ黒だよ」
キハルは機嫌を損ねて家へと去る。トモも後を追う。
暑くても働かざるを得ない。一部屋だけの家がもう一つできた。四人が戻ってきたら住まわせる。コウとリンは農具を引きずり黙々と土をほじくり返す。畑も広がってきた。種はまだ蒔かない。雨で土が流されるか確認してからになる。流されにくい種芋が欲しい。
夕立がきてキハル以外はハチの巣へ逃れる。四時二十分とハシバミは腕時計で確認する。やんだあとは仕事の効率が一気に上がる。呼子笛が聞こえたと見張り番のベロニカが駆けてきた。
カツラとアコンと犬たちが久々に鹿を捕らえた。三分の二をみんなで食べて、残りを干し肉にするけど腐りそう。切実に塩が欲しい。
*
夕暮れが近づくなか、ハシバミは地図(ゴルフ場パンフレットの道案内図)を見ていた。それにはキハルが近い村の位置に印をつけてある。小さい畑がある村。
ここまで危険を冒して仲間を導いたハシバミ。それは野心のためだけでない。本人の胸が冒険心であふれていたからだ。しかし最近は農作業ばかり。キハルを見つけたのはカツラたちだし、将軍の村への遠征メンバーからも外された。
キハルが炭でつけた丸印へは、川を渡りアスファルトを辿れば一日で行けるらしい。空からの当てずっぽうだからあてにはならない。でも、たどり着けないとしても……。
「どう思う?」夕食時にクロイミへ尋ねる。
「いますべきじゃないと思う。ヒイラギやシロガネたちが戻ってからだね」
クロイミは正論を述べるだけだ。
「どっちにしてもハシバミは行くべきでない」
ゴセントが聞き耳を立てていた。
「俺とブルーミーで行ってみたいな。途中まででいいからさ」
ツヅミグサが言う。
「色男と一緒に行動したら――」
ブルーミーがくだらないことを言いだしたので、なおさら頭に来た。
「ゴセントの言い分だと僕は村から出られないみたいだね。狩りもするな。釣りもするな」
ハシバミはやや語気荒く告げる。
「うむ。狩りはやめるべきと思う。釣りは問題ないけど、武器は携帯すべきだ」
「分かったよ。明日は僕が釣り当番をする。漁獲高が落ちてきたから遠出する。開拓してみる」
ハシバミは仲間たちを見渡す。ツユクサと目が合う。冒険心といたずら心が湧いてきた。「ツユクサと行く。犬は釣りには邪魔だからいらない」
「朝一番に出発だね。だったら早く寝よう」
ツユクサは長じきじきに声かけられて頬を赤らめる。
ゴセントは何か言いたげだったが、黙って鹿の骨をしゃぶる。
「晴れていたら私はヒイラギたちを追ってみる。見つけられるか分からないけど」
焚き火の明かりで裁縫しながらキハルが言う。
「なにを作っているのだ?」
カツラが尋ねる。
「顔全体を隠すマスク。クロイミが私の顔を見たくないそうなので」
「三名ほどで湧水を探ってみたいな。バオチュンファの村にあった水路を作れたら最高だ。僕とブルーミー、ゴセントでいいかな」
クロイミは聞いていなかった。
***
翌朝は日が昇る前にハシバミとツユクサは村をでる。ミカヅキを村に運んだおかげで広すぎる道ができたが、切り株だらけで歩きにくい。雑草の伸びも激しい。
コウリン、アコン、ベロニカも途中までついてきた。彼らは川の両岸に縄を通してみるらしい。それに頼るのは危険だけど、渡渉の補助になるのは間違いない。手伝うまでもない仕事だ。
川にたどり着いたところで闇が青白くなった。ランプを三人に渡して川を渉る。廃村で藪に釣り具を隠す。
「釣りというのは嘘で、本当の目的は小さな村の偵察だ。重大な任務だから君にお願いした」
ハシバミが槍と弓だけを持つ。
その言葉の効果は絶大で、ツユクサの鼻の穴がひろがった。
「ハシバミ親方了解」
ツユクサは小刀とはったりの銃を持つ。
二人だけで小冒険に出かける。
晴れたら晴れたで焼かれるほどの暑さになる。
「奇跡的簡単に四人を見つけたけどルートがずれていた。上空から教えてやった」
キハルは一時間のフライトで戻ってくる。ヒイラギたちはじきに大きな道にでて、あとは嫌でもエブラハラに突き当たるそうだ。山に入れば見つけられないから、今日はもう飛ばないらしい。
トモがノネズミを捕まえて、ハシバミのもとに持ってきた。わざわざハチの巣までだ。
「お腹いっぱいだから長に捧げるみたいだね」
キハルが笑う。
「犬たちからの後ろ盾になってほしいのかな」
ハシバミも苦笑いするけど。
「顔を布で覆ってミカヅキに乗るべきかも」
隣にいたクロイミが言う。
「どうせ私は南の平野ほどに真っ黒だよ」
キハルは機嫌を損ねて家へと去る。トモも後を追う。
暑くても働かざるを得ない。一部屋だけの家がもう一つできた。四人が戻ってきたら住まわせる。コウとリンは農具を引きずり黙々と土をほじくり返す。畑も広がってきた。種はまだ蒔かない。雨で土が流されるか確認してからになる。流されにくい種芋が欲しい。
夕立がきてキハル以外はハチの巣へ逃れる。四時二十分とハシバミは腕時計で確認する。やんだあとは仕事の効率が一気に上がる。呼子笛が聞こえたと見張り番のベロニカが駆けてきた。
カツラとアコンと犬たちが久々に鹿を捕らえた。三分の二をみんなで食べて、残りを干し肉にするけど腐りそう。切実に塩が欲しい。
*
夕暮れが近づくなか、ハシバミは地図(ゴルフ場パンフレットの道案内図)を見ていた。それにはキハルが近い村の位置に印をつけてある。小さい畑がある村。
ここまで危険を冒して仲間を導いたハシバミ。それは野心のためだけでない。本人の胸が冒険心であふれていたからだ。しかし最近は農作業ばかり。キハルを見つけたのはカツラたちだし、将軍の村への遠征メンバーからも外された。
キハルが炭でつけた丸印へは、川を渡りアスファルトを辿れば一日で行けるらしい。空からの当てずっぽうだからあてにはならない。でも、たどり着けないとしても……。
「どう思う?」夕食時にクロイミへ尋ねる。
「いますべきじゃないと思う。ヒイラギやシロガネたちが戻ってからだね」
クロイミは正論を述べるだけだ。
「どっちにしてもハシバミは行くべきでない」
ゴセントが聞き耳を立てていた。
「俺とブルーミーで行ってみたいな。途中まででいいからさ」
ツヅミグサが言う。
「色男と一緒に行動したら――」
ブルーミーがくだらないことを言いだしたので、なおさら頭に来た。
「ゴセントの言い分だと僕は村から出られないみたいだね。狩りもするな。釣りもするな」
ハシバミはやや語気荒く告げる。
「うむ。狩りはやめるべきと思う。釣りは問題ないけど、武器は携帯すべきだ」
「分かったよ。明日は僕が釣り当番をする。漁獲高が落ちてきたから遠出する。開拓してみる」
ハシバミは仲間たちを見渡す。ツユクサと目が合う。冒険心といたずら心が湧いてきた。「ツユクサと行く。犬は釣りには邪魔だからいらない」
「朝一番に出発だね。だったら早く寝よう」
ツユクサは長じきじきに声かけられて頬を赤らめる。
ゴセントは何か言いたげだったが、黙って鹿の骨をしゃぶる。
「晴れていたら私はヒイラギたちを追ってみる。見つけられるか分からないけど」
焚き火の明かりで裁縫しながらキハルが言う。
「なにを作っているのだ?」
カツラが尋ねる。
「顔全体を隠すマスク。クロイミが私の顔を見たくないそうなので」
「三名ほどで湧水を探ってみたいな。バオチュンファの村にあった水路を作れたら最高だ。僕とブルーミー、ゴセントでいいかな」
クロイミは聞いていなかった。
***
翌朝は日が昇る前にハシバミとツユクサは村をでる。ミカヅキを村に運んだおかげで広すぎる道ができたが、切り株だらけで歩きにくい。雑草の伸びも激しい。
コウリン、アコン、ベロニカも途中までついてきた。彼らは川の両岸に縄を通してみるらしい。それに頼るのは危険だけど、渡渉の補助になるのは間違いない。手伝うまでもない仕事だ。
川にたどり着いたところで闇が青白くなった。ランプを三人に渡して川を渉る。廃村で藪に釣り具を隠す。
「釣りというのは嘘で、本当の目的は小さな村の偵察だ。重大な任務だから君にお願いした」
ハシバミが槍と弓だけを持つ。
その言葉の効果は絶大で、ツユクサの鼻の穴がひろがった。
「ハシバミ親方了解」
ツユクサは小刀とはったりの銃を持つ。
二人だけで小冒険に出かける。