第147話「運命の岐路③」

文字数 2,607文字

 リストマッティの言う大きな転機とは、一体何なのだろう?
 ダン達は注目した。

「私達の先祖にとって、大きな転機とは……人間の、ある冒険者との邂逅だった。運命の巡り合いと言って、過言ではないだろう」

「…………」

「若い男だった。行方不明となった、同じく冒険者の弟ローレンスを探す為、この迷宮を訪れたのだ」

「…………」

「その冒険者の名こそ……バートクリード・アイディール」

「…………」

「後に……アイディール王国を打ち建て、開祖となる若き英雄さ」

 伝説通り……迷宮にはアイディール王国開祖バートクリード・アイディールが訪れていた。
 更に、リストマッティの話は続く。

「バートクリードは私達と会い、じっくり話し、隠された真実を知った」

「…………」

「そして彼は……既に私達が救い、保護していたローレンスとも話した……一緒に、地上へ帰ろうとね」

「…………」

「だが、弟……ローレンスは地上へは戻らない意思を示した」

「…………」

「哀しい運命を背負った民を救う為に、新たな国を作る為に、身体を張って力になるとローレンスは……兄バートクリードへ強く熱く訴えたのだ」

「…………」

「バートクリードは……弟の崇高な(こころざし)と強固な意思に感動した。そして、はっきりと約束してくれた」

「…………」

「自分は、またこの国へ戻って来る。何を置いても、弟の力に……すなわち私達の力にもなると固く誓ってくれた」

「…………」

「その約束は、すぐに果たされた」

「…………」

「バートクリードは、それから何度も何度も迷宮へ来てくれた。多くの情報と物資を運んでくれた」

「…………」

「迷宮へ来るのは、愛する弟を気にして会う為なのは勿論だが……彼自身、迷宮が心身を鍛錬する為に、うってつけだと気が付いていた。結果、バートクリードは技量をたっぷり磨いた……そして勇者と称されるまでに成長した」

「…………」

「そんな……バートクリードの最も大きな功績は……当時のリョースアールヴの長を説得し、この国へ連れて来てくれた事なのだよ」

「ええええっ!」

 思わず、ヴィリヤが叫んだ。

 無理もない。
 リョースアールヴの長が、まさか、この国へ……
 デックアールヴの国を訪れていたとは。

「元々、バートクリードは、リョースアールヴの長とは親しかったらしい。現在のアイディール王国とリョースアールヴの国イエーラの関係を見ても納得出来る話だ」

「…………」

「そして、驚いた事に……4代目にあたる長テオドルは、自分の祖父が犯した罪を知っていた」

「…………」

「私達を陥れた2代目の長は……良心の呵責に耐えられなかったのか……後に、3代目の長となる自分の息子へ、全てを告白していたというのだ。犯した罪をあらいざらい……」

「…………」

 またもヴィリヤの常識が壊されて行く……

 呪われている、忌み嫌われている、デックアールヴことダークエルフは汚らわしい種族……
 子供の頃から、そう教えられて育って来たヴィリヤなのに……

 全てがねつ造であり、罪を犯していたのは……リョースアールヴの方だったのだ。

「バートクリードに連れられ、訪れたテオドルも、3代目の長である父から告げられ、真実を知っていた。そして謝罪した。何と土下座をしてな……誇り高いリョースアールヴの長が、だ」

「…………」

「テオドルは地上へ戻る前に誓ってくれた……私達が地上へ出る事に、陰ながら協力すると約束してくれたのだ」

「…………」

「だから私達は長年の恨みつらみを捨て……リョースアールヴを許した。前を向き、新たな道へ歩き出す為に……」

「…………」

「それからだ……従来は迷宮で見捨てていた、リョースアールヴの者も助け、新たな民として迎える事になったのは……」

「…………」

 ここで、リストマッティは、ゲルダに擬態したヴィリヤへ視線を向ける。

「そこなリョースアールヴ。……ゲルダと言ったな……」
 
「…………」

「もし地上へ戻ったら……(あるじ)のアスピヴァーラ家へ、当主ヴェルネリ・アスピヴァーラへ対し、尋ねるが良い……慎重に、人払いをしてな」

「…………」

「6代目の長ヴェルネリも真実を知っている。そして、テオドルの遺志を継ぎ……私達へ援助もしている。一族の他の者には絶対に知られないように……」

「…………」

「……忠告しておこう。上手く伝えないと……秘密を知る者として、お前はヴェルネリに殺されるぞ」

「…………」

「私が話した事の、具体的な証拠は……バートクリードの弟ローレンスの発案による」

「…………」

「バートクリードとテオドル、ローレンス3者連名の未来永劫、協力を誓う書面、そしてアイディール王国とリョースアールヴ族の紋章、そしてローレンスの名が刻まれた銀の魔法指輪だ」

「…………」

「全く同じ書面、そして同じデザインの金の指輪がアイディール王国に、プラチナの指輪がリョースアールヴの国、イエーラにある筈だ。今迄、国民に所在を明かした事のない、秘中の国宝として……」

「…………」

「そして私達には……書面のオリジナルと、銀の指輪があるのさ。3者の友情の証としてな……」

「…………」

「その後……ローレンスは……人柄と実力、そして数多の功績を認められ、人間でありながら、デックアールヴ達の指導者となった」

「…………」

「最後に言っておこう……この私、リストマッティは、ローレンスの子孫なのだよ」

「む!」
「え?」
「え?」

 さすがにダン、エリン、ヴィリヤから驚きの声が漏れた。

 デックアールヴ達から、ソウェルと称えられるリストマッティは、純粋なデックアールヴではなかった……
 英雄と呼ばれた人間バートクリードの、血縁者である。

「人間が……神に近い英雄として、バートクリードを崇拝するのも分かる。彼は、素晴らしい人物だったからね」

「…………」

「だが弟のローレンスの方が……私達、デックアールヴにとっては英雄だ」

「…………」

「私は……彼の子孫である事を、心の底から誇りに思う」

 リストマッティはそう言うと、子供のように無邪気な笑顔を見せたのであった。
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登場人物紹介

☆ダン・シリウス

本作の主人公。人間族の男子。

魔法、体術ともに圧倒的な強さを誇る魔法使い。

特に火と風の魔法を得意とする。

飄々とした物言いだが、性格は冷静沈着、情に厚い部分も。但し、女性に対しては基本的に奥手。

召喚された異世界で、創世神の神託が出る度、世界へ降りかかる災いを払う役目を負わされた。

だが王都暮らしを嫌い、一旦役目を果たせば、次の神託まで、普段は山里に隠れるように住んでいる。

ある時『世界の災厄である悪魔王』を倒す仕事を請け負い、絶体絶命のピンチに陥ったエリンを、偶然に助けた。

☆エリン・ラッルッカ

地の底深く暮らす、呪われしダークエルフ族の王女。地の魔法の使い手。

突如、攻めて来た悪魔王とその眷属により、父と一族全員を殺される。

しかし、悲しみに耐え、前向きに生きると決意。

絶体絶命の危機を救ってくれたダンと共に、地上へ……

ダンの自宅へ強引に『押しかけ』た。

☆ヴィリヤ・アスピヴァーラ

エルフ族の国、イエーラから来た、アイディール王国王宮魔法使い。

水の魔法の使い手。エルフ族の長ソウェルの孫娘。

ダンを異世界から、『勇者』として召喚した。 

傲慢な振る舞いを、ある日ダンからたしなめられ、以来熱い想いを抱くようになる。

☆ニーナ

人間族の国アイディール王国王都トライアンフ在住の女子、ビストロ英雄亭に給仕担当として勤める。孤児であり、両親は居ない。双子の兄が居たが、ある迷宮で死んだらしい。

以前店で仕事中、ガラの悪い冒険者に絡まれた。だが、ダンに助けられ、彼に片思い状態である。

☆ベアトリス・アイディール

アイディール王国王女にして、創世神の巫女。

ある日突然、巫女の力を得ると共に、身体の自由を殆ど失い、更に盲目となった。

ダンに神託を与え、世界へふりかかる災厄を防ぐ。

巫女として役目を果たす事に生き甲斐を感じながら、自らの将来に対し、大きな不安を抱えている。

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