第151話「必然たる理由①」
文字数 2,200文字
魔力で動く時計でしか、時間を計る事は出来ないが……
翌日、ダン達は、最初に案内された『会議室』に居た。
いよいよ、ダンがリストマッティ達へ、デックアールヴ復権の為に協力するか、それとも否か……の返事をするのだ。
昨日のメンバーは全員揃っていた。
つまり、リストマッティと、配下のデックアールヴ達である。
「さて……ダン殿。貴君の回答や、いかに?」
リストマッティの問いかけに対し、ダンは即座に答える。
「ああ、喜んで協力させて貰う」
ダンのOKを聞き、リストマッティは満足そうな笑みを浮かべる。
『予想通り』という感じだ。
「ありがたい! では、私の話を聞き、ダン殿は納得し、賛同して頂けた……という、理解で良いのだな?」
「それもある」
「ん? それも……とは、どのような意味だね?」
不可解な面持ちになったリストマッティに対し、ダンは「ここからが本番!」という雰囲気を醸し出している。
「さて……ここで、ふたつのサプライズを、リストマッティ、貴方達へ見せよう」
「何? ふたつのサプライズ?」
「そうだ、俺には、あなた方に協力すべき、確固たる理由が、ふたつある」
「むう! 協力すべき確固たる理由があると?」
「ああ、それらをこれから明かす、まずは、我が嫁エリンがその理由さ! エリン立ってくれ!」
「はいっ!」
ダンに呼ばれ、エリンが、すっくと立ち上がった。
そして胸を張り、リストマッティ達を見据えた。
しかし、リストマッティ達は、怪訝な表情をする。
目の前の人間の少女に、何の理由があるのかと?
ダンの魔法は……それほど、完璧であった。
上位魔法使いと思われる、リストマッティと配下達が、デックアールヴだと、全く見抜けないのだから。
「ダン殿……その娘、エリン殿が、貴君の妻という認識はあるが……どうして彼女が私達に協力する理由となるのか? ……皆目、見当がつかん」
「…………」
リストマッティの疑問に対し、ダンは、暫し無言であった。
まるで時間を与え、リストマッティ達を、試しているかにも見える。
ダンの意図を受け、リストマッティは、少し考えたようである。
だが、答えを出すのを、すぐに諦めたようだ。
彼にとって、ダンが協力する『理由』よりも、『事実』の方が、ずっと大切なのである。
「ふむ……まあ、いかなる理由にせよ、ダン殿……君が協力してくれるのなら、こちらは大歓迎だ」
しかしダンとエリン、ヴィリヤにとっては、ここでしっかりと伝えておかねばならない。
エリンとヴィリヤの、真の正体を。
3人が協力する、必然たる理由なのだから。
「……リストマッティ、これから起こる事を良く見てくれ。貴方は絶対に納得する筈だ」
ダンはそう言うと、「ピン!」と部屋中に響くような音で、鋭く指を鳴らした。
すると、変化の魔法が解けた!
目の前の……エリンの輪郭が、ぼやけて行く……
「お、おお!……これは魔法か!? こ、この娘の顔が! 髪が! ま、まさか! デックアールヴ!?」
リストマッティが驚いて叫んだ通り、あっという間に、エリンの顔立ちが変わって行く。
瞳がダークブラウンから菫色へ、髪が薄い栗色からシルバープラチナへ、そして耳も変わった。
そして、左右からエルフ族特有の、尖った小さな耳がぴょこんと飛び出したのだ。
やがて……
真の姿を見せたエリンは、「じっ」と、リストマッティを見つめた。
そして、凛とした口調で告げる。
「リストマッティ、良く見なさい! これが、本当の私よ!」
「おお……」
「ああ!」「まさか!」「どうして!」「ありえない!」
まさしく!
エリンは、デックアールヴ。
ひと目で分かる『同胞』の姿を目の当たりにして、リストマッティと配下達は、驚愕の二文字に染まっていた。
「リストマッティ、……エリンは地上で俺と暮らす為、今迄、変身の魔法で、人間に擬態していたんだ……理由は……貴方なら分かる筈さ」
ダンの物言いを聞き、混乱しながらも……
リストマッティと配下は、ダンが仕掛けを施したり、嘘をついていないと判断したようだ。
何故ならば、ダンは、リストマッティ達を偽る必要が全くないからである。
「う、うう……ダン殿! 貴方が今更! う、嘘をつくなど! あ、ありえないっ」
「ああ、エリンが、デックアールヴであるのは、嘘じゃない」
「う、うむ! わざわざ人間の娘を、魔法でデックアールヴに変化させるなど……この段階では、全く意味のない行為だ」
「リストマッティ、その通りさ」
「ならばっ! た、頼む! こ、この子の正体を……教えてくれっ!」
必死の形相となったリストマッティの要望に、ダンは即座に答えてやった。
「エリン……名乗ってやれ」
「はいっ!」
エリンは返事をすると、大きく息を吸い込んだ。
そして、大きな声を発し、名乗る。
「私は、エリン・ラッルッカ。偉大なるデックアールヴの王、トゥーレ・ラッルッカの娘よ」
驚くリストマッティ達を、正面から見据え、エリンは堂々と名乗った。
それは彼女の人生の中で、最も誇りを籠めた挨拶であったのだ。