第137話「未知の世界へ①」
文字数 1,916文字
今、『王の間』の一角に、未知の世界への魔法扉は開かれていた。
謎めいた『ソウェル』、リストマッティがダン達を迎え入れる為に開いた秘密の扉である。
果たして本当に無事でいるのだろうか?
クラン
開いた扉を一瞥し、ダンは、きっぱりと言い放つ。
「悪いが、護衛役を先へ行かせて貰う」
用心深いともいえる、ダンの言葉を聞いたリストマッティは、興味深そうに尋ねる。
「ほう、何故だ?」
「当然、安全の為さ。俺達が初めて入る場所だからな。それに、中には転移門があるのだろう?」
「うむ、ダン君の言う通り、扉の中には転移門がある。その転移門から、我が王国へ来て貰う事となるだろう」
「ああ、ならばその転移門も、まず護衛に入って貰う」
ダンは簡単に、相手を信用していない。
この迷宮に隠された魔法扉の奥、そして転移門に入って転送された先がどうなっているのか、分からない。
極端にいえば、一網打尽に罠へはめられる可能性もある。
だから、護衛役を先行させると宣言したのである。
「信用されていない!」と、激しく怒るかと思いきや……
リストマッティは何故か、感心しているようだ。
「ふむ……ダン殿は慎重さと大胆さを兼ね備えている。益々気に入った」
相手に賞賛されたダンであったが、苦笑し「しれっ」と受け流す。
「いくら褒めても、何も出ないぜ」
「はははははっ! 確かに口だけだな。そう、私はケチだ。これくらいでは、何も出さぬ」
ダンとリストマッティがやりとりするのを聞きながら……
ヴィリヤはつい、「ふっ」と笑った。
これから行く未知な世界も含めて、自分が知らない事がまだまだたくさんあると。
そう……
今回の迷宮探索は、ヴィリヤの常識と価値観を根底から粉々に突き崩したといって過言ではない。
それは先ほど、ダン達が姿を隠していた異界で起こった。
衝撃の事実であった。
ヴィリヤは、『その時の事』を思い出していたのである。
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……迷宮へ入って、まずヴィリヤが驚いたのは、ダンの能力の大幅アップである。
何と、地の魔法を習得していた。
しかし、先程発動した特別な魔法は、それどころではなかったのだ。
……時間は、少しさかのぼる。
謎の敵?より身を隠す為、ダンから空間魔法を使うと聞き、またもヴィリヤは吃驚した。
ソウェルの祖父でさえ、空間魔法を使った事は、彼女の記憶になかったのだから。
一応、「ダンの管理者は私なのに」と、拗ねて、少しだけ抗議をしたが……
問い質されたダンは苦笑し、軽く頭を下げただけである。
そして、空間魔法は簡単に発動した。
ダンは他の魔法同様、短い言霊を詠唱しただけで、容易に発動させたのである。
結果、エリンとヴィリヤが連れて行かれたのは、何もない真っ白な空間である。
3人の他には誰も居ない……
自然も生物も、景色さえない……
暖かくも寒くもない……
本当に何もない空間……
そして、「この異界へ敵は来れず、全く安全だ」と、ダンから言われ……
念話も中止し、肉声で喋る事となった。
3人は座り込み、車座となる。
話の、口火を切ったのはダンである。
「さあて……ある意味、迷宮よりここが、ヴィリヤにとって、本番になるかもしれないな」
「私にとっての、本番?」
「そうさ、思い出してくれ。俺がお前の気持ちを受け入れると言った時の事を」
「は、はいっ!」
ヴィリヤの気持ちを受け入れると聞き、思わず、彼女の声は大きくなった。
そう、ヴィリヤにとって、迷宮探索は二の次。
ダンともっともっと仲良くなりたい、尽くしたい。
もっと深く愛し、ダンからも愛されたい!
「その『想い』だけでついて来た!」といって過言ではないのだ。
ヴィリヤは思い出す、先程の記憶を手繰る。
……確かダンはこう言った……
「……もしかしたら、お前は自分の価値観を含め、想像以上に多くのものと、きっぱり決別しなくてはならないかもしれないぞ」と。
対してヴィリヤは……はっきりと、誓った
「はいっ! 全てエリンさんから聞いています。私、どんな困難も覚悟しています。貴方と結ばれる為なら、頑張って乗り越えます」と。
思い起こしても、気持ちは……全く変わらない。
改めて、強い決意を述べる為、ヴィリヤは大きく深呼吸したのであった。