第15話「呪われた一族①」
文字数 2,351文字
ダンとエリンが並び、テーブルを挟んでその向かい側に訪ねて来たアルバートとフィービーが座っている。
各自の表情は様々。
ダンは、別にいつもと変わらない。
但し、非難は一切受け付けないという頑なな顔つきだ。
傍らのエリンは……不機嫌そうだ。
頬をぷくっと膨らませている。
彼女が見せる不満な様子は、アルバート達闖入者に対しての拒絶反応である。
片やアルバートはというと眉間に皺を寄せており、フィービーは一気に疲れたようになっていた。
まずはアルバートが問う。
「ダン、この子は……一体どうしたんだい?」
アルバートの問いに対し、ダンは淡々と答える。
「一体どうしたもこうしたも、行き掛かり上さ」
「行き掛かり上? と、いうと」
「今回の依頼の際に助けたんだ、以上」
あまりにも簡潔過ぎるダンの答えに対し、アルバートは更に突っ込まざるをえない。
「以上って……おいおいおい! この子が何者なのか知っているのかい? 俺にはこの子の風貌を見て不安しかないが……」
何者呼ばわりされたエリンが、むきになって反論する。
「この子が何者って、何なのよ! 不安しかないって失礼じゃない! エリンはダンのお嫁さんなんだからぁ」
エリンの『嫁宣言』を聞き、アルバートとフィービーが驚く。
「ええっ!? この子が嫁って……そうなのか、ダン」
「ダンったら、冗談でしょう?」
驚くふたりを尻目にエリンは真剣だ。
「ね、そうだよね、ダン!」
問い詰めるエリンに対して、ダンは笑顔で頷く。
「ああ、成り行き上、そうなっているみたいだ」
「成り行き上って、もうっ! 違うもん、運命の出会いなんだもん。ダンはエリンの王子様なんだもん」
ダンから満足な答えを貰えず、エリンはむくれてしまう。
さっきより、もっと頬を膨らませている。
フィービーが恐る恐るダンへ問う。
まるで何か、言ってはならない事を仕方なく言うように。
「え、えっと、ダン。……そ、その子、エルフに似ているけど少し違う……古文書に描かれている特徴もあるし……も、もしかして……ダ、ダークエルフじゃない?」
フィービーの声は、震えていた。
この世界でダークエルフとは、それほど禁忌の存在なのである。
創世神の怒りによって、地上を追われたという事実は重いのだ。
しかし、エリンは「ずいっ」と前に出る。
胸を張って、フィービーの方を向く。
「そうよ! 私はエリン! エリン・ラッルッカ。ダークエルフの王トゥーレ・ラッルッカの娘よ」
ダンに対して聞かれた質問なのだが、エリンは自ら堂々と名乗った。
エリンは思う。
この人達は、一体何を言っているのだろうと。
ダークエルフは美しく気高いのに。
大昔、創世神には罰せられたが、悔い改めて地下で静かに暮らして来た。
その証拠に、他の者へ何も害を加えようともしていない。
エリンは王であった亡き父を尊敬していたし、自分以外は死に絶えてしまったがダークエルフの一族を誇りにも思っている。
恥ずべき事は、一切無かった。
「アルバート、フィービー、エリンの言う通りだ。この子はエリン、ダークエルフ王の娘。そして俺の嫁……かもしれない」
エリンの事を、ダンは擁護してくれた。
しかし煮え切らないダンの言葉に、エリンは少々イラついている。
「かもしれないって、何よ、ダンったら!」
怒るエリンへ、アルバートが初めて話し掛ける。
フィービーほどではないが、エリンがダークエルフだと知って少しだけ声が上ずっている。
「な、なあ……君はエリンと言ったね」
「そうよ!」
「……悪いが、ちょっと席を外してくれないか? ダンと話があるんだ」
席を外す?
これは絶対に碌な話ではない。
余り人を疑わないエリンにだって、すぐ分かった。
「嫌よ! エリンに内緒でこそこそ話をされるなんて」
エリンが拒否すると、アルバートは覚悟を決めたように切り出す。
「……ならば言おう。ダークエルフとは
ダークエルフは、人間とは暮らせない!?
アルバートの衝撃的な発言を聞いて、エリンはショックを受けたようだ。
「暮らせないって……何故? そんな事言わないでよ、おじさん!」
エリンは、また悲しくなって来る。
たったひとりのダークエルフでも、この地上で生きようとしていたのに。
大好きなダンと一緒なら、頑張れると思っていたのに。
辛い表情になったエリンへ、フィービーが追い討ちを掛ける。
ダンに向かって、ずばり言い放ったのである。
「そ、そうよ、ダン……この子は神様に呪われた一族の娘じゃない。ここに居るときっと災いが起こるから、すぐに元の地下世界へ帰って貰った方が良いわ」
フィービーの情け容赦ない言い方に、エリンは目の前が真っ暗になる。
「エリンが呪われた一族って!? 酷い、酷いわ! エリン達は地の底で一生懸命生きて来たわ。誰にも迷惑を掛けていない。それなのに……悪魔達が攻めて来て……う、ううう……」
泣き出してしまったエリンを見て、ダンが手を挙げて発言を遮る。
「アルバート、フィービー、もうやめろ! そんな事言ったら、俺だってまともな人間じゃない」
自分が、まともな人間ではない。
ダンの発言を聞いた、アルバート達の顔色が変わる。
しかし、ショックの余りむせび泣くエリンの耳に、ダンの衝撃的な言葉は一切入っていなかったのである。