第111話「ファーストバトル」

文字数 2,352文字

 ダンからは、エリンとヴィリヤのふたりで協力し、スライムを倒せと言われたが……
 今迄反目していたふたりの息がすぐ合うはずもなく……
 どう協力し合って、戦えば良いのか全く分からない。
 お互いに、顔を「じっ」と見合わせるだけである。
 
 但し、先程の話合いでお互いの魔法属性だけは分かっていた。
 エリンが地、ヴィリヤが水である。

 と、その時。

「うおおん」

 再び、ケルベロスが闇の奥に向かって吠えた。
 またも敵の気配を察したらしい。
 ダンも「にやり」と笑う

「おいおい、スライムがもうすぐ近くまで来たってよ」

「え? あ、本当だ」

 エリンもハッとしていた。
 どうやら、スライムの気配を完全に掴んだようだ。
 そして、

「た、戦う準備をしないと、まずいですわ」

 慌てたヴィリヤも、噛みながら言うと、意を決したようにエリンを見る。

「エ、エリンさん、わ、私が凍結の魔法『氷化』でスライムを凍らせます」

 自分の方が先に、魔法を使うというヴィリヤの提案。
 しかし、エリンは首を振って反対する。

「ええっ、凍らせるなんて、いちいちまどろっこしいよ。エリンの岩弾でまとめて叩き潰すから」

 エリンが得意の岩弾で一気に片をつける、その提案を今度はヴィリヤが呑まない。

「いいえ! 却下します! 岩なんかで潰したら、ぶちゃとか嫌な音がして気持ち悪いわ」

 単なる反対ではなく、ヴィリヤは顔をしかめ、エリンの魔法を否定するように言う。
 さすがに、エリンはムッとする。

「な!? 岩なんか? 岩なんかって、何よぉ!」

 エリンの文句を聞き、遂にヴィリヤの悪癖が出てしまう。

「はい、言った通りですよ。地の魔法なんかに比べれば、水の魔法は優雅で美しいのです。何せ、高貴なる水界王アリトン様が管理される聖なる大魔法ですから」

 ヴィリヤは自分を誇らしげに言うばかりか、地の魔法を貶めるような言い方をし、上級精霊の名まで出して来た。
 ちなみにアリトンとは、水界王と呼ばれる上級精霊である。
 あらゆる水の変遷を管理する存在で、水の妖精(ウンディーネ)達の支配者である。

 だが、こうなるとエリンも負けてはいられない。
 激しい口調で反論したのだ。

「何、言ってるのぉ! 地の魔法はね、高貴なる地界王アマイモン様の加護による最強の魔法なんだよぉ」

 エリンの言う地界王アマイモンは、地の精霊(ノーム)達を統括する上級精霊だ。
 地脈や植物の繁茂を支配する、大地の王ともいえる存在なのだ。 
 エリンの言葉を聞き、眉をひそめたヴィリヤ。
 譲れない『表現』が入っていた為だ。

「最強? 何を言っているの。最強の魔法は水に決まっています」

「い~え、地の魔法だもん」

「絶対、水です!」

「馬鹿な事言わないで、地だよぉ!」

 エリンとヴィリヤの言い争いが勃発した。
 と、その時またもやケルベロスが吠える。

「うおおん!」

 何故か「いい加減にしろ」というように、エリンには聞こえた。
 思わずヴィリヤを見るが、相変わらずつんとして譲りそうもない。
 困ったエリンは、とうとうダンに助けを求めたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 結局……
 ダンがとりなし、エリンとヴィリヤは『休戦』した。
 そうこうしているうちに、スライムは迫っていたので、やむを得ずダンに指示を出して貰う事となったのである。

 ダンの出してくれた指示は、折衷案と言えるものだ。
 まずヴィリヤが、凍結の魔法でスライム達を凍らせる。
 そしてエリンが、凍結したスライムを地の魔法、岩弾で破砕する。
 
 精霊魔法の波状攻撃を使い、襲って来るスライムを倒そうというのである。
 ……たかがスライムに大袈裟な! と、言うなかれ。

 ダン達クランにとってはこの戦いがデビュー戦。
 大事な第一歩なのだから。
 念話では魔法が発動しないと思ったのか、ヴィリヤの詠唱は肉声である。

水の妖精(ウンディーネ)! 我に力を! 大気よ、凍れ(イーサ)!」

 もう、スライム達はダン達の目前に居る。

(ショット)!」

 ヴィリヤの決めの『言霊』と共に、魔法は発動された。

 その間、ダンは腕組みをしていた。
 エリンはというと、自分の魔法発動の準備をしながら、ヴィリヤの魔法を見つめている。
 彼女にとって生まれて初めてみる、水の魔法『氷化』である。

 びしびしびし!

 冷気が迷宮を満たして行く。
 あっという間に、周囲の気温が下がって行く。

 すると、なめくじのように床を這い、ダン達に近づいていたスライムがぴたりと止まった。
 体内に多くの水分を含むスライムは、ヴィリヤの魔法により呆気なく凍結したのだ。
 エリンは素直に感嘆する。

「おお、凄い!」

「うふ、でしょう? ようやく分かったぁ」

 得意そうなヴィリヤだが、今度は立場が逆転する。
 エリンが魔法の発動準備に入ったからだ。

「一族の守護を司る大地の精霊(ノーム)よ! 我に力を!」

 魔力が高まって行く。
 ダンには劣るが、大きな魔力の波動を感じたヴィリヤは目を丸くした。

(ショット)!」

 エリンが言霊を叫ぶと、多くの岩塊が異界から発生し、凄まじい速度で固まったスライム達へ突き進む。

 悪魔麾下のオーク達もあっさり屠ったエリンの岩弾である。
 冒険者ギルドのマスターも苦戦させたほどの岩弾である。
 動けなくなったスライムなど、敵ではない。

 さすがに威力は抑えていたが……
 エリンの魔法を受け、凍ったスライム達は、あっさりと粉々になったのであった。
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登場人物紹介

☆ダン・シリウス

本作の主人公。人間族の男子。

魔法、体術ともに圧倒的な強さを誇る魔法使い。

特に火と風の魔法を得意とする。

飄々とした物言いだが、性格は冷静沈着、情に厚い部分も。但し、女性に対しては基本的に奥手。

召喚された異世界で、創世神の神託が出る度、世界へ降りかかる災いを払う役目を負わされた。

だが王都暮らしを嫌い、一旦役目を果たせば、次の神託まで、普段は山里に隠れるように住んでいる。

ある時『世界の災厄である悪魔王』を倒す仕事を請け負い、絶体絶命のピンチに陥ったエリンを、偶然に助けた。

☆エリン・ラッルッカ

地の底深く暮らす、呪われしダークエルフ族の王女。地の魔法の使い手。

突如、攻めて来た悪魔王とその眷属により、父と一族全員を殺される。

しかし、悲しみに耐え、前向きに生きると決意。

絶体絶命の危機を救ってくれたダンと共に、地上へ……

ダンの自宅へ強引に『押しかけ』た。

☆ヴィリヤ・アスピヴァーラ

エルフ族の国、イエーラから来た、アイディール王国王宮魔法使い。

水の魔法の使い手。エルフ族の長ソウェルの孫娘。

ダンを異世界から、『勇者』として召喚した。 

傲慢な振る舞いを、ある日ダンからたしなめられ、以来熱い想いを抱くようになる。

☆ニーナ

人間族の国アイディール王国王都トライアンフ在住の女子、ビストロ英雄亭に給仕担当として勤める。孤児であり、両親は居ない。双子の兄が居たが、ある迷宮で死んだらしい。

以前店で仕事中、ガラの悪い冒険者に絡まれた。だが、ダンに助けられ、彼に片思い状態である。

☆ベアトリス・アイディール

アイディール王国王女にして、創世神の巫女。

ある日突然、巫女の力を得ると共に、身体の自由を殆ど失い、更に盲目となった。

ダンに神託を与え、世界へふりかかる災厄を防ぐ。

巫女として役目を果たす事に生き甲斐を感じながら、自らの将来に対し、大きな不安を抱えている。

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