第121話「反攻開始」
文字数 2,156文字
これからどうなるか、心配……
でも……
ダンを信じる。
一生添い遂げる。
……そう信じて、自分の心と身体を任せた相手だ。
だからヴィリヤは……関係ない。
結局は、ダンと自分の問題なのだ。
エリンは湧き上がる不安を吹き飛ばそうと、首を「ぶんぶん」と横に振る。
そう!
考え過ぎず、会話に入れば良いのだ。
折角、クランとしてまとまって来たのだから。
エリンは無理やり笑顔を作る。
ちょっと不自然にはなったが、努めて明るく振舞う。
『旦那様、あ、あいつ、どこに潜んでいるのかなっ。謎を解けって』
ダンは、エリンの気持ちが分かっているのだろう。
優しく微笑みかけてくれた。
『エリン、こんな時は逆手さ』
『逆手?』
首を傾げるエリンに、ヴィリヤが追随する。
『ダン、逆手って?』
ダンは素知らぬ顔をして、ふたりに言う。
『ああ、どうせさっきの奴は、隠れて俺達を見ている筈だろう?』
『確かに! 旦那様の事、気にしてた』
『うん、ダン! 確かにそう』
『そんな注目度ナンバーワンの俺達が、奴の前から消えたらどうなる?』
『え? 消えたら?』
『ダン、どうするつもりなのですか?』
『おお、手はいくつか考えた。それに』
『それに?』
『何ですか?』
『ずっと変だと思っていたよ、この迷宮』
『変?』
『何がですか?』
『地下1階の、【店】は別にしてもさ……冒険者を奥へ奥へと誘い込む意思が、各所にいろいろ反映されている』
『意思?』
『あ、例えば魔導灯ですね?』
『ああ、そうだ。大昔はなかったらしいじゃないか? ギルドで地図を貰って話した時、王国もギルドも知らないってクローディアさんも言っていただろう? あんなもの、普通の冒険者は設置しない。加えて、あちこちに見えないよう【視点】が隠されている』
『視点?』
『何か、魔法水晶みたいなものを設置して、来た者を見張るとか?』
『ああ、ヴィリヤの言う通りだ。その上、もうひとりのソウェルとやらが、俺に興味を持っているって……全て含め何故だと考えたんだ』
『もうひとりのソウェルがあいつに命令したんだね……旦那様と、凄く話したいって感じで』
『そうですね。ソウェルなんて、どうせ偽物の自称でしょうけど……あいつ、ダンをとっても気にしていましたね』
『うん! でだ! 逆手に取って、さっきの奴へ罠を仕掛けてやる』
『罠って、捕まえるの?』
『ダン、どうやって?』
『な~に、奴が幻影の魔法で所在を隠そうとしても、放出される
『ああ、そうか! あいつの尻尾をぎゅっと捕まえるんだね』
『ですねっ! あんな偉そうな奴、ぎゃふんと言わせましょう』
3人は顔を見合わせて頷き、再び出発したのである。
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謎の存在の正体を明かす……
更なる大きな目的も出来たが、まずダン達が向かうのは迷宮の最下層だ。
迷宮へ来た本来の目的……
クラン
加えて、各自の鍛錬&スキルアップも忘れてはならない。
ダンはふたりへ告げた。
こんな状況の時こそ落ち着けと……
一歩、二歩下がって、自分を見れば良いという。
どんなに舞い上がって、浮わついているかが分かる。
終いには自分が滑稽に見える……
『俺自身が散々やらかしたからなぁ……今だから、カッコつけて言ってるけど』
苦笑し、頭を掻くダンを見て、エリンとヴィリヤは笑った。
心の底から大笑いした。
『という事で、警戒しつつ戦う……さあ、反攻開始だっ』
『旦那様っ、了解!』
『ダン、了解!』
地下6階でも……やはりというか、オークの群れは出た。
そして、先程『中断した作戦』も行われたのである。
ダンとケルベロスが先行、今度は新たに
オークを迎撃した。
だが、心配なのは、エリンの精神状態である。
だが今度は『大丈夫』であった。
ダンが離れて、またも「かっ」となりかけたエリンではあったが、今度は傍らに支えてくれる者が居た。
ヴィリヤが気を利かせ、とっさに手を握ってくれたのである。
なので、ちゃんと落ち着けた。
『ヴィリヤ、ありがとう!』
エリンは素直に礼が言えた。
『いいえっ、こちらこそっ!』
対して、ヴィリヤも素直に言葉を返せた。
暗闇に怯えた自分を、エリンは守ろうとしてくれた。
祖父と家を侮辱され、我を失いそうになった自分を、エリンが支えてくれた。
そう!
ふたりは改めて、実感していた。
仲間だから、お互いに助け合う。
足りない部分を補い合う。
『よっし、俺とケルベロス達は退避したぞっ、今だっ!』
ダンの合図と共に、氷化の魔法、岩弾の魔法が発動された。
その見事なコンビネーションにより、襲って来たオークの群れはあっさり壊滅したのであった。