第66話「ニーナをナンパ?③」

文字数 2,429文字

 ダンを好きになったという、ニーナの告白。
 だけど……
 ナンパして助けたなんて、話は『とんちんかん』だ。
 
 当然だが、エリンはダンがナンパするなんて嫌だ。
 でも、ニーナは嬉しそうだ。
 話の辻褄が合わず、エリンにはまだ、話が見えない……

 不可解に思ったエリンは、じっくり話を聞こうと身構えた。
 一方、自らの記憶を呼び覚ましながら、ニーナは話し続ける。

「私をさらおうとしたのは、普段から評判が悪い冒険者クランでした」

「悪い冒険者?」

 エリンが聞き直すと、ニーナはいかにも不快そうに言う。

「ええ、街中で暴れたり、女性に絡んだり無法者として恐れられていました……でも、悪さをするくせに、ずる賢こくて衛兵の目を巧くすり抜けて……とんでもない奴らでした。私、たまたま目をつけられたようで、何かにつけて誘われていましたが……相手も相手だし一切断っていたのです」

「当然! そんな悪人男に女子は惚れない」

「ええ、私、あんな奴ら大嫌いでした。だけど相手が、とてもしつこかったのでモーリスさんも怒って出禁にしました」

「デキン?」

 エリンは、首を傾げた。
 聞き慣れない言葉である。

 すかさず、ニーナが微笑んで『解説』してくれる。

「出禁とは、この店へは出入り禁止って事です」

「成る程、納得、当然だよね!」

 そんな奴らが店内に居たら、美味しいご飯だって不味くなる。
 大きく頷き同意したエリンへ、ニーナは話を続ける。

「ですね! 幸い私はこの店に住み込みなので、ひとりになるのは危ないと思って、モーリスさんが一緒の時以外は暫く外出も控えていました」

「うん、当然、危ないよ」

「ええ、ですが……ある日、たまたま食材が切れてしまって……」

「食材が? じゃあ、料理が作れない?」

「はい! モーリスさんは予約の入っていた大事なお客さんに出す為に、どうしても必要だと……悩んだ末に私を留守番にして市場へ買い物に行きました」

 護衛役であるモーリスが居なくなる……
 と、なるとニーナは?

「留守番? それ……危ない!」

 エリンが思わず声を出すと、今度はニーナが頷く。

「ですよね……出禁なので奴らは居ませんでしたが、店内に居た誰かに、お金を掴ませていたらしくて……モーリスさんが居なくなると、奴らがどこからともなく現れて、お店の中へ踏み込んで来たんです」

 出禁になった自分達だとニーナを見張れないので、金で人を雇い監視させるとは?
 どこまで、小賢しい奴らなのだろう?
 どこまで、女に執着するのだろう?

 エリンは、ムカムカしながら問いかける。

「最低! 悪知恵働くね、それで?」

 ニーナが、絶体絶命の危機!
 それで、どうなったのだろう?
 状況は?
 
 気になるエリンは、先を知りたがった。
 ニーナも頷き、応えてくれる。
  
「はい! 奴らは大人数で無理やり私を連れ出そうと、危ない雰囲気になったのですが……たまたま居合わせた、クラン(フレイム)の方々が私を守ろうとしてくれました」

 クラン(フレイム)……
 ニーナから、聞いた事のある名前を告げられて、エリンが微笑む。
 冒険者ギルドで会った、人懐っこそうな風貌の男達が脳裏に浮かんで来る。

「クラン(フレイム)? チャーリー達だ、それ」

「エリンさん、ご存知でした? チャーリーさん達?」

「うん、昼間会ったよ、温かかった」

 温かい……
 エリンの『表現』を、聞いたニーナが微笑む。

「ええ、クラン(フレイム)はこの店の常連で、優しいし勇敢で良い人達です、私の危機(ピンチ)に見て見ぬ振りなんかしませんでした。普段は酔っぱらって、私のお尻を触るとか、ちょっとエッチなのが玉に瑕ですけど……」

「お尻を触る? ええっ? 嫌だなチャーリー、確かにエッチかも! それで、それで」

「はい! その悪い冒険者っていうのが、実はランクBの猛者達で……ランクCの チャーリーさん達、相当酔っていましたし、実力を出せずにあっという間にのされちゃったんです。思い切り殴られて、痣が出来るくらい怪我もしちゃって……私の為に……本当に申し訳なかったです」

 ニーナは、とてもすまなそうにしていた。
 エリンはチャーリー達が気の毒だと思いながら、自分の見立てが間違っていなかったことが嬉しい。

「偉い! チャーリー達、立派な男だよ! ニーナを守る為に頑張ったんだ、そしてその極悪人共が偉そうに勝ち誇ったところに、もしかしてダンが登場?」

「そうなんです! ダンさんもチャーリーさん達と飲んでいてだいぶ酔っぱらっていました」

「そうなんだ、ダンは酔っぱらい!」

「はい、でも私……思わずダンさんへ『お(にい)、助けて』とか叫んじゃって! 今から考えると、怯えて相当混乱していたんですね」

 死んだ兄の面影を、ニーナはダンに求めたのだろう。
 いつもピンチになると、助けに来てくれた唯一の肉親だった兄を。

 エリンは、「そっ」と聞いてみる。

「でも……もしかしてダンが似ていたの? ニーナのお兄さんに?」

 しかし、ニーナはきっぱりと否定する。

「いいえ、ダンさんの顔は全然似ていません……私、いつもお兄に助けて貰っていたので、つい……」

「そうだよね……」

 口ごもるエリンに向かって、ニーナが一転悪戯っぽく笑う。
 どうやら、思い出し笑いのようだ。

「それでダンさんったら、その悪い冒険者達を完全無視して……私に向かって俺と遊びに行かないって? うふふ」

「わぁ! それ、やっぱりナンパだぁ! ダンのエッチ、飢えた狼」

「あははは! 何ですか、その飢えた狼って? 可笑しい!」

 エリンの表現が、言い得て妙で、相当面白かったのだろう。
 
 ニーナはつい、大笑いしてしまったのであった。
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登場人物紹介

☆ダン・シリウス

本作の主人公。人間族の男子。

魔法、体術ともに圧倒的な強さを誇る魔法使い。

特に火と風の魔法を得意とする。

飄々とした物言いだが、性格は冷静沈着、情に厚い部分も。但し、女性に対しては基本的に奥手。

召喚された異世界で、創世神の神託が出る度、世界へ降りかかる災いを払う役目を負わされた。

だが王都暮らしを嫌い、一旦役目を果たせば、次の神託まで、普段は山里に隠れるように住んでいる。

ある時『世界の災厄である悪魔王』を倒す仕事を請け負い、絶体絶命のピンチに陥ったエリンを、偶然に助けた。

☆エリン・ラッルッカ

地の底深く暮らす、呪われしダークエルフ族の王女。地の魔法の使い手。

突如、攻めて来た悪魔王とその眷属により、父と一族全員を殺される。

しかし、悲しみに耐え、前向きに生きると決意。

絶体絶命の危機を救ってくれたダンと共に、地上へ……

ダンの自宅へ強引に『押しかけ』た。

☆ヴィリヤ・アスピヴァーラ

エルフ族の国、イエーラから来た、アイディール王国王宮魔法使い。

水の魔法の使い手。エルフ族の長ソウェルの孫娘。

ダンを異世界から、『勇者』として召喚した。 

傲慢な振る舞いを、ある日ダンからたしなめられ、以来熱い想いを抱くようになる。

☆ニーナ

人間族の国アイディール王国王都トライアンフ在住の女子、ビストロ英雄亭に給仕担当として勤める。孤児であり、両親は居ない。双子の兄が居たが、ある迷宮で死んだらしい。

以前店で仕事中、ガラの悪い冒険者に絡まれた。だが、ダンに助けられ、彼に片思い状態である。

☆ベアトリス・アイディール

アイディール王国王女にして、創世神の巫女。

ある日突然、巫女の力を得ると共に、身体の自由を殆ど失い、更に盲目となった。

ダンに神託を与え、世界へふりかかる災厄を防ぐ。

巫女として役目を果たす事に生き甲斐を感じながら、自らの将来に対し、大きな不安を抱えている。

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