第162話「皆が還って来る!」
文字数 2,332文字
今回の迷宮探索は、冒険者ギルドの依頼ではない。
しかしギルドとリョースアールヴの国イエーラのバックアップを受けており、報告を入れるのは義務に近いものがあった。
そしてダンには、大きな目的がある。
アイディール王国の英雄でドラゴンスレイヤー。
ギルドマスターのローランド・コルドウェルを建国の『同志』として、引き入れる事だ。
サブマスターのクローディアにより応接へ通され、ローランドが入って来た。
迷宮探索前に、ギルドを訪れた際に、ローランドは不在であった。
久々にダンとエリンの顔を見た嬉しさからか、目を細める。
ただ、王宮魔法使いのヴィリヤ、副官のゲルダも一緒に居るのを見て、少しだけ怪訝な顔付きをした。
「マスター、ローランド。今回の救助及び調査は、ヴィリヤ様達の故国、イエーラにも多大な協力をして頂きました。ですから、おふたりが同席されるのは、何の不自然さもありません」
「おお、そうだったな」
「はい! 私の判断で通しました」
「うむ、ありがとう」
ローランドは、目を細める。
クローディアは、日々成長していると。
そんな表情のローランドを、ダンはじっと見つめた。
真剣な眼差しで。
ローランドは、ダンが報告を開始する前に告げて来る。
どうやら、「探索は失敗した」と見て、ダン達を気遣っているようだ。
「さて、ダン殿……どうやら、行方不明者の救助は叶わなかったようだ。まあ、伝統ある英雄の迷宮が、今や悪名高い人喰いの迷宮なのだからな。3人共、無事に戻ったのだ。それだけでも良しとすべきだな」
ローランドに続き、クローディアも微笑む。
「そうですよ、ダン殿。聞けば、最下層、地下10階まで到達したとか……大したものだと思います」
しかし、ダンは澄ました顔で、首を振った。
「おふたりから、過分ともいえるお褒めの言葉を頂き、感謝と言いたいところですが……」
「む?」
「ダン殿、含みのある、その言い方……どういう事でしょう?」
ローランドは唸り、クローディアは、ダンに尋ねた。
ダンは、大きく頷き、
「今の俺の言い方で、何となくお察しだと思いますが、今回の探索、目的はほぼ達成しました」
「何?」
「それは!」
「ええ、先に行方不明になった冒険者ルネ、そしてクラン
「ほう!」
ミッションはクリアしたと聞き、ローランドは感嘆し、クローディアはダン達の行動を訝しがる。
「で、では! どうして!」
「何故? 彼等を地上へ連れて帰らなかったのか……当然、起こる疑問ですね」
「うむ、ダン殿……事情を説明して欲しいものだ」
「ええ、ダン殿、お願いします」
ローランドとクローディアの要望が一致した。
だが、これから明かす事は、秘中の秘である。
ローランド達は、ゲルダやモーリスと比べ、まだダン達との絆は薄い。
しっかり念を押さねばならない。
ダンは一転、厳しい表情になる。
「まず誓って下さい。これから俺が話す事は、おふたりが見る事は、絶対に他言無用だと……もし、約束を
容赦ないダンの物言いであったが、それだけ、重大事と察したのであろう。
ローランドは、躊躇なく了解する。
「分かった、誓おう」
「え? ロ、ローランド様!」
慌てたのは、クローディアだ。
まるで『脅し』ともいえるダンの言い方なのだ。
しかし、ローランドが首を振ると、覚悟を決めたようである。
「……わ、分かりました、私も! ち、誓います」
ここで、ダンは準備完了と判断し、エリンへ念話で話しかける。
必要不可欠な『儀式』とはいえ……
毎度、まるで『晒し者』のようになるエリンが、ダンには不憫なのである。
『エリン、何度も悪いな。まるで見世物みたいにして』
『ううん、違うよ! 旦那様、エリンはね、思うんだ』
エリンは、とびきりの笑顔を向けて来た。
ダンも、微笑み返してやる。
『ん? どうした?』
『だって! エリンが本当の姿を見せる度に、信じられる仲間が増えるんだもの……』
『確かにそうだ。仲間がどんどん増えるな』
『でしょう! エリンはね、こうして仲間が増えると、亡くなったお父様を始め、天へ還った、デックアールヴの皆が帰って来る、どんどん帰って来る! そんな気がするの……』
エリンの、笑顔と言葉に、ダンは救われる。
彼女は、いつも前向きなのだ。
その前向きさに、誰もが惹かれてしまう。
『な、成る程、そうか!』
『うん、絶対にそうだよ』
エリンは、きっぱりと言い放った。
ダンの気持ちに、温かさが満ちて来る。
エリンを、愛する『想い人』の気持ちを……
絶対に、絶対に守ろうという、強い決意も満ちて来る。
『確かに! ……そうだな。俺も同感だ』
『うん! だから何度やっても、全然平気。旦那様は、いつも上手くやってくれるもの!』
『おお、そうか?』
『うん! 本当の姿で、フルネームを名乗るのは、エリン、気持ち良いよ』
『よし! じゃあ、行くぞ。堂々と胸を張って、ローランド様達へ名乗ってやれ』
『はい!』
エリンの力強い返事を聞き、ダンは改めて、肉声を使い、エリンを促す。
「エリン!」
「はいっ!」
「出番だ!」という、ダンの声に応え、
エリンは勢いよく、立ち上がったのである。