第29話「仲直り①」

文字数 2,518文字

 今朝も、ダンとエリンは仕事に励んでいた。
 ペット?の『犬』『猫』、そしてニワトリに餌をやり、続いて畑の手入れをしている。

 昨夜は、それぞれ自分の身の上を話した。
 『距離』は更に近くなり、お互いを思いやれるようになった。
 ダンもエリンも、ふたりで頑張って助け合い、共に生きて行こうと改めて思うのだ。

 エリンが大きな声をあげながら、必死に草をむしっている。

「わぁ! 昨日むしったのに、もうこんなに生えているのっ? やっぱりアマイモン様の力って凄いんだね」

「そうだな」

 全世界における、植物の繁茂を司る大地の上級精霊がアマイモン。
 ダークエルフ達の守護を担う大地の精霊(ノーム)達の支配者だ。

 ここで、エリンが提案する。

「でもエリンもダンも土の魔法が使えるから、ちゃちゃっと魔法で雑草が生えないようにすれば良いのに、その方が絶対に楽ちんだよ」

 しかし、ダンは首を振る。
 エリンと話しながらも、雑草をむしる手は休んでいない。

「確かにエリンの言う通り、魔法を使えば楽だ。だけど……こうやって地道に働かないと、人間が駄目になりそうな気がしてな」

「楽をしたらダメになるの? エリン達が? ふうん……」

 エリンは、可愛らしく首を傾げる。
 ダンの言う事を少しでも理解しようと、頑張っているのが分かる。
 そんなエリンのちょっとした仕草が、ダンは愛しいと思う。

「それに汗を流して働けば、腹も減って飯も一層美味い」

 労働の後の食事という、紐づいた言い方をしたら、エリンはすぐ理解したようだ。

「成る程! 一生懸命働いてお腹が空くと、ご飯が美味しい……そうか、そうだよね……うんっ! ダンの言う通りだねっ。エリンにも段々分かって来たよ」

 エリンの言葉に、笑顔で応えていたダンであったが、急に眉間に皺を寄せる。

「む! 誰か、来る」

「誰? あ、この気配は?」

 エリンも、ダンの真似をして眉間に皺を寄せた。
 不快そうな表情になる。

「この気配……エリンに酷い事を言ったふたりだ」

 エリンへ、酷い事を言った……
 となると、来るのはあのアルバートとフィービーのふたりであろう。

 ダンも、誰が来るかは分かっていたようである。

「ああ、そうだな。まあ……そろそろ来る頃だとは思ったよ」

「そろそろ?」

 何故、ダンが予想通りのような言い方をするのか……
 エリンには不思議であった。

 しかしダンは納得しているらしい。
 小さく頷く。

「うん、このままにしてはおけないから、お互いにな」

「???」

 ダンの言う意味が……分からない。
 エリンはちょっと悔しくて、拗ねたような表情になる。

 気付いたダンは、エリンの顔を見て苦笑した。
 片手を挙げて、謝罪する。

「ああ、御免。少し説明が必要だな」

「説明?」

「アルバート達が王家に命じられた、俺の監視役だとは言ったな」

「うん、エリン覚えているよ」

 エリンの記憶力は良い。
 抜群と言っても良い。
 監視役と聞いたアルバート達が、何か理由があってダンを見張っているという認識は持っていた。

 エリンが頷くと、ダンは言う。

「そう、アルバート達は、な。この王国の元騎士で、俺の監視役兼連絡係なんだ。たまにヴィリヤ……あいつから直接使い魔が来ることもあるけどな」

「連絡係? 使い魔?」

 エリンは、まだ話の中身が見えない。
 ダンは漸く、自分のミスに気付いたようだ。

「ああ、御免。最初から順を追って話そう。そうじゃないと良く分からないよな」

「うん! お願い」

 やっぱりダンは、エリンの事を考えてくれている。
 そう思ったエリンは、嬉しくて堪らない。

 ダンは微笑み、ゆっくりと話し出す。

「まず大元は創世神の巫女さ。この国で創世神の巫女はたったひとり。彼女は神殿ではなく王宮に居る。その巫女に神託とやらが降りて、俺に仕事の依頼が来る。その神託は直接俺ではなく、間接的に来る。俺に連絡をくれるのが王宮魔法使いであるヴィリヤ・アスピヴァーラなんだ」

 宿敵の名前が出たので、エリンの目付きが鋭くなる。

「むむむ、そのエルフ女が巫女から神託の話を受けるのね。偉そうにぃ!」

「その通り。下された神託の内容を、反映させた魔法の指令書をヴィリャが作る。その指令書を預かって、ここへ持って来るのがアルバート達。俺はその指令書に従って仕事をするんだ」

「ああ、そうだったんだぁ!」

 創世神の神託により、ダンは地下世界へ来た。
 エリンの居る地下世界へ来て、助けてくれた。
 やはり運命だ!
 エリンは、一転して機嫌が良くなった。

「それで、指令書にあの最低悪魔の名前があったの?」

「そうだよ。それで魔王アスモデウスを倒してお前を助けて、今回依頼された仕事が完了しただろう? そうすると創世神の巫女へ再び神託が降りるそうだ。(わざわい)が去った……ってな。それで巫女からまたヴィリヤへ連絡が入る……最後にヴィリヤから、つまり俺の仕事が終了したという連絡が来るのさ」

「つまり、これからあのふたりが来るって事は……ダンの仕事が終わったていう神様のお報せ?」

「そういう事……俺の監視と、ヴィリヤからのパシリもやっているのがアルバート達だ。彼等が連絡をくれたら、俺は報酬を受け取りに、王都へ行く」

 漸く、エリンにも話が見えて来た。
 簡単に言えば、ダンは創世神の神託を受けて働いているのだと。
 そして現在は、ちゃんと働いた分の見返りも貰っているようである。

「良かったね、もうただ働きじゃなくて」

 エリンの言葉を聞いた、ダンは悪戯っぽく笑う。
 ヴィリヤというエルフに、お仕置きした事を思い出し笑いしたのだ。

「ああ、全くだ。散々ただで働かされて、怒った俺がつんつんヴィリヤのお尻をぺんぺんしたからな」

 気取ったつんつんエルフに、お尻ぺんぺん!
 エリンは、ダンの言い方が面白くて堪らない。

 つい、「あははっ」と大笑いしてしまったのであった。
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登場人物紹介

☆ダン・シリウス

本作の主人公。人間族の男子。

魔法、体術ともに圧倒的な強さを誇る魔法使い。

特に火と風の魔法を得意とする。

飄々とした物言いだが、性格は冷静沈着、情に厚い部分も。但し、女性に対しては基本的に奥手。

召喚された異世界で、創世神の神託が出る度、世界へ降りかかる災いを払う役目を負わされた。

だが王都暮らしを嫌い、一旦役目を果たせば、次の神託まで、普段は山里に隠れるように住んでいる。

ある時『世界の災厄である悪魔王』を倒す仕事を請け負い、絶体絶命のピンチに陥ったエリンを、偶然に助けた。

☆エリン・ラッルッカ

地の底深く暮らす、呪われしダークエルフ族の王女。地の魔法の使い手。

突如、攻めて来た悪魔王とその眷属により、父と一族全員を殺される。

しかし、悲しみに耐え、前向きに生きると決意。

絶体絶命の危機を救ってくれたダンと共に、地上へ……

ダンの自宅へ強引に『押しかけ』た。

☆ヴィリヤ・アスピヴァーラ

エルフ族の国、イエーラから来た、アイディール王国王宮魔法使い。

水の魔法の使い手。エルフ族の長ソウェルの孫娘。

ダンを異世界から、『勇者』として召喚した。 

傲慢な振る舞いを、ある日ダンからたしなめられ、以来熱い想いを抱くようになる。

☆ニーナ

人間族の国アイディール王国王都トライアンフ在住の女子、ビストロ英雄亭に給仕担当として勤める。孤児であり、両親は居ない。双子の兄が居たが、ある迷宮で死んだらしい。

以前店で仕事中、ガラの悪い冒険者に絡まれた。だが、ダンに助けられ、彼に片思い状態である。

☆ベアトリス・アイディール

アイディール王国王女にして、創世神の巫女。

ある日突然、巫女の力を得ると共に、身体の自由を殆ど失い、更に盲目となった。

ダンに神託を与え、世界へふりかかる災厄を防ぐ。

巫女として役目を果たす事に生き甲斐を感じながら、自らの将来に対し、大きな不安を抱えている。

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