第152話「必然たる理由②」
文字数 2,135文字
「ええっ!」「おおおっ!?」「そんなぁ!」「嘘だろう!」
エリンによる、衝撃の告白……
リストマッティは勿論、配下達も大きな動揺を隠せない。
ダンに話した際には、ラッルッカと、尊称をつけずに呼んでいたのに……
娘であるエリンが目の前に居るとあっては、さすがに主筋として、呼ぶ気持ちが湧き起こったに違いない……
終いには……
リストマッティ達全員が発する声は、はっきりした言葉にならず、ただ唸っているだけであった。
傍から見ても、分かるほど息も荒くなり、今にも切れそうだ。
見かねたダンが、言葉を掛ける。
「大丈夫か、リストマッティ……だが、貴方も魔法使いだ。こんな時は……分かるだろう?」
「ああ、ダ、ダン殿! そ、そうか! こ、こんな時! き、気持ちを静め、お、落ち着く為には……こ、呼吸法だな?」
ダンの質問に対し、リストマッティの答えは合っていた。
魔法使いの使う呼吸法は、魔力を高めると共に、精神を落ち着かせ、集中する効果もあるのだ。
満足そうなダンは、微笑み、頷く。
「正解! その通り」
「い、今の! 私達には、あ、ありがたい、助言……だ。い、痛み……入る」
ダンに向かい、微笑み、礼を言うストマッティ、そして配下の者達も……
懸命に息を整え始めた。
リストマッティ含め魔法使い達は呼吸法、以外の者は深呼吸を使い……
す~は~、す~は~、す~は~、す~は~……
エリンだけが、「すっく!」と立つ部屋。
リストマッティと配下達の、大きな息遣いが響いた。
やがて……リストマッティ達が、ようやく落ち着いたと見たのだろう。
ダンは、意味ありげに問い質す。
「では、リストマッティ。エリンの話を聞く、心構えは出来たか?」
まだ驚く事があるのかと、リストマッティは、戸惑いの表情を見せる。
「こ、心構えとは?」
「ああ、エリンがこれから話すのは、貴方達にとって、凄く辛い話だから」
「す、凄く? 辛い話? な、何だ?」
「よし、単刀直入に言おう。あなた方の王ラッルッカと仲間達は……エリン以外、誰も生き残ってはいない」
ダンが、いきなり!
あまりにも厳しい現実を告げると、リストマッティの驚きは頂点に達した。
「な、な、な、何だとぉぉぉ!!!」
「あああっ!」「おおおおっ!」「うぐぐぐぐっ!」
リストマッティ達が、大きなショックを受けるのも無理はない。
考え方の相違から、遥か昔に、袂を分かったとはいえ……
主筋の王一族と数少ない仲間が、既に死んだと聞かされたのだ。
思わず頭を抱えるリストマッティ達が、果たして話を聞ける状態なのか……
ダンは、再び尋ねる。
「リストマッティ、まだ……落ち着く時間が必要か?」
しかし、リストマッティは首を振った。
早く、事実を知りたい!
そんな気持ちが、はっきりと顔に表れていた。
「い、いや! き、聞こう! ダン殿、貴方は知っているようだ! い、一体、何があったのかを」
リストマッティは、厳しい現実を、何とか受け止めたらしい。
ダンの見る限り、とりあえず、話は進められそうだ。
「分かった、話はエリンからさせよう。臣下の礼などとらず、座ったまま聞いてくれ」
頷いたダンは、エリンへ向き直り、
「エリン、どうだ? 話せるか?」
と、尋ねた。
エリンは、既に気持ちを固めていたのだろう。
「ええ! 大丈夫」
と、答えた。
しかし、エリンがこれから話す事は、折角ふさがった心の傷口を、自ら開く行為である。
「無理をするな、辛くなったら、すぐ手を挙げてくれ……俺がフォローする」
「ありがとう! 旦那様」
エリンは、大きく息を吐くと……
リストマッティ達を見据えながらも、遠い目をし、地下世界で暮らしていた事を、ゆっくりと話し始めたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
エリンは……話し続ける。
地下都市で生まれた時から、子供時代までを楽しそうに。
対して、リストマッティ達は、興味深そうに聞いている。
そして、いよいよ話は佳境へと入った。
ある日、突然!
怖ろしい悪魔王アスモデウスが現れ……
夥しい眷属どもを率いて、平和に暮らしていたエリン達の国へ、一気になだれ込んだのだ。
不意を衝かれた形であったが……
王トゥーレ・ラッルッカは、あっさり降伏はしなかった。
選り抜きの配下を率い、抵抗し、懸命に戦った。
エリンも持てる力で、父を助け、死力を尽くして戦った。
しかし……
悪魔達の圧倒的な力に敵う筈もなく、男達は容赦なく殺され、女達はおぞましく犯された後、無残に喰われ……死んで行った……
繰り広げられる戦いの様子を、エリンは、何とか話してはいたが……
むごたらしく殺される、父や仲間の姿が、記憶に甦ったのだろう。
エリンは、話す声が、だんだん小さくなり……
遂には、黙り込んでしまったのである。