第14話「いつもと違う朝」
文字数 2,303文字
こけこっこ~
翌朝……まだ太陽が昇る前。
辺りが薄暗い中、ダンの家の朝は、ニワトリ達のけたたましい鳴き声で始まる。
「おっと! 朝か」
いつもの習慣で、ダンは「ぱっちり」と目が覚めた。
昨夜……
夜中にちょっとした出来事があり、結局ダンはエリンと同じベッドで寝たのである。
狭いベッドにふたりで寝るのは窮屈ではあったが、ダンとエリンはお互いの体温をしっかりと感じて安眠出来た。
隣のエリンは、と見ると……まだ「く~く~」眠っていた。
相変わらず、幸せそうな笑顔一杯なエリン。
何とも無防備な、可愛い寝顔である。
「そうか……今朝はエリンが居るんだものな……」
ダンは微笑むと、エリンを起こさないように「そっ」と起き出した。
手早く、農作業用の服に着替えたダンは、厨房経由で庭へ出た。
『仕事』が無い日、ダンの生活は結構規則正しい。
毎朝、日の出前に起きて犬と猫、ニワトリに餌をやる。
そして畑の作物に水をやってから、朝食の支度にかかるのだ。
庭へ行くと、早速犬と猫が喜んで出迎える。
ばうばうばう!
にゃごにゃご!
器に焼いた肉を盛り、水と一緒に犬と猫へ与えてやると、彼等は美味そうに食べている。
不思議な事に、昨夜一匹だけだった犬が二匹に増えていた。
茶色の犬だけだったのが、真っ白な犬が新たに加わっていたのである。
ダンが手を挙げると、白い犬がひと声大きく吠えた。
何故か、ダンと犬は暫し見つめ合う。
まるで、意思の疎通をするかのように。
暫し経ち、納得したようにダンは頷くと、次はニワトリ小屋へ入って行く。
こちらもダンが来ると、反応してにぎやかになる。
餌をくれる主人だと分かっているらしい。
餌箱に飼料を入れてやると、ニワトリは喜んでつつき出す。
空いた巣箱を見ると、ニワトリは今朝も卵をいくつか産んでくれていた。
「おお、スクランブルエッグが食えるな」
卵料理は手軽に作れる事もあり、ダンは結構好きだ。
中でもスクランブルエッグが彼の大好物であり、エリンも気に入ってくれたので嬉しい。
卵は後で回収しようと決めて、ダンは井戸から木桶に水を汲んで畑で水やりをする事にした。
所詮素人であり、手のかからないものを少し作っているくらいだが、農作業をすると生活にメリハリは出る。
エリンのお陰で、地の上級精霊アマイモンの加護を受ける事が出来たので、これからは、もっと作物が上手く栽培出来るか相談しようとも思う。
何せ、地界王と呼ばれるアマイモンは、世界中における植物の繁茂も管理しているからだ。
その時である。
ダンの索敵に何者かの反応があった。
「お、誰か来る……何だ、アルバートとフィービーか」
ダンは、普段から警戒を怠らない。
世間から隔絶されたような暮らしをしていても、全くの無防備にはならない
穏やかなダンの表情を見る限り、これからやって来るのは敵ではないようだ。
暫し経ち……
平凡な農民夫婦、という出で立ちの男女がダンの家を訪ねて来た。
男がアルバート、女がフィービーという名前らしい。
ふたりは畑で水やりをしているダンへ、挨拶する。
「おはよう! おうい、ダン! お前の帰還合図があったから来たぞ」
「ダン、おはよう」
アルバートは年齢が30代半ば。
栗毛の短髪でがっちりした体格をしている。
農夫の格好をしているが、目付きが鋭く身のこなしも只者ではない。
一方、フィービーは30歳手前でこちらも栗毛で短髪。
やはり農村に住まう女性という格好だが、物腰が戦う者という気配を発していた。
ちなみにアルバートとフィービーは『本当の夫婦』ではある。
「おはよう、ふたりとも」
ダンが応えると、アルバートは感心したように言う。
「お前がぴんぴんして無事……と言う事は今回も依頼を見事に完遂したという事か?」
「そうだよ」
事もなげにダンが言うと、アルバートは更に唸る。
「むむむ、さすがだな……今回、ベアトリス様が出された神託の依頼は魔王討伐だろう? ……良くひとりで倒せたな」
「凄いわね……やはり、勇者……」
フィービーも同意して感嘆しているようだ。
しかしダンは手をさっと挙げる。
「おっと! アルバートにフィービー、やたらと依頼内容をぺらぺら言うのはNGだろう?」
「あ、ああ……悪い、俺達だけだと思って、つい……」
「御免なさい」
ダンの指摘に対して、素直に詫びるふたり。
どうやらダンには色々と『事情』があるらしい。
「ふたりとも俺の帰還の確認かい? 毎度ながらご苦労様としか言えないな」
「こっちも役目なんでね、仕方がないさ」
「そうよね」
アルバートとフィービーはダンの連絡兼監視といった役回りなのだろう。
「折角来たんだ、朝飯でも一緒に食うかい?」
「頂くよ」
「私も」
ダンの誘いに、アルバート達は応じた。
いろいろ思惑はありそうだが、ダンとの仲は一応良好という感じだ。
ニワトリの卵を回収したダンに続いて、アルバート達が家に入った瞬間。
ひとりの少女が眠い目をこすりながら立っている。
「ダン、いやだ、エリンをひとりきりにしてぇ。そんなの絶対にいけないんだから」
「え?」
「あ?」
薄手の肌着だけを纏った、エリンの姿。
目の当たりにしたアルバートとフィービーは吃驚し、カチコチに固まってしまったのであった。