第13話「いきなり、お泊り④」
文字数 2,063文字
ダンにとっては、この家に住み始めてから、このようににぎやかな夕飯は初めてであった。
エリンにとっても、こんなに喋りながら食事を摂った経験などなかった。
生まれて初めて食べた、地上の食材を使った料理の美味さは勿論だが、エリンは殊の外ワインが気に入ったようである。
最初の赤ワインの杯を美味そうに飲み干すと、続けて白ワイン、お代わりして赤ワインと間を置かずに「くいくぃ~っ」と飲んでしまったのだ。
酒を飲んだ事もなかったエリンが、3杯も飲んだワインの影響はすぐに表れた。
酔いが回ったエリンの顔は、ほのかに赤く染まり、口が極端に滑らかになったのである。
酔ったエリンは……喋る、喋る。
まるで機関銃のように。
話の内容はというと、所詮は他愛もないもので、殆どがダンに甘えるものであった。
ダンもエリンに甘えられるのが、嫌ではない。
むしろ嬉しい。
しかし、ついふたりで楽しく喋っていたら、エリンが調子に乗って更にワインを飲もうとする。
それを見たダンは、慌てて止めた。
エリンが素直に言う事を聞いてくれたから良かったものの、これ以上飲み続けたらどうなるかと思い、ダンは今後が心配であった。
そんなダンの心配など、どこ吹く風というように、エリンはほろ酔い状態である。
「食べた、食べたよぉ、ダン。美味しかったぁ、エリンはお腹いっぱ~いっ、うふふふっ」
「こら、エリン、この酔っ払いめ」
「ええ? 酔っ払いって、な~に? エリンはとっても気持ち良いよぉ。これって、ワインのせい? ダン、教えて~」
しなだれかかるエリンを、しっかりと受け止めてダンは言う。
「しゃあないな~、寝るぞ、エリン」
「うい~、寝るのぉ? じゃあ、これからエリンと子作りするんだよねぇ?」
いきなり出た爆弾発言。
ダンは思わず吹き出した。
「ぶっ! しね~よ」
ダンの即座の却下に、むきになったエリンは絡む。
酒の、勢いもあって絡みまくる。
「ダ~ンったらぁ!!! 何で何で何で~、エリンが嫌いなのぉ。エリンはダンの子供がい~っぱい欲しいのっ! あう~、眠いよぉ~、ダ~ン!」
エリンはぶつぶつ言いながら暫くダンに甘えていたが、遂に限界が来たのだろう。
ダンの胸の中で、「こてん」と寝てしまった。
「しゃあないなあ」
ダンは、眠り込んだエリンを軽々と抱き上げた。
いわゆるお姫様抱っこである。
「そっ」とベッドまで連れて行く。
飛翔しながらエリンを抱えて分かったが、彼女の身体はとっても華奢である。
しかし、反則ともいえるのが、その見事な胸であった。
まるで高い山のようにふたつ突き出ているのだ。
「ど~ん」と迫り来る、見事なエリンのおっぱい。
目のやり場に困りながらダンは呟く。
「ふう、同じエルフでも、あいつとはえらく違うもんだ」
今の言葉を聞く限り、ダンには他のエルフの知り合いもいるらしい。
エリンを、自分の粗末なベッドに寝かせたダンは、優しく毛布を掛けてやった。
「むにゃ……ダン……エリンを置いて……どこにも行っちゃ……ダメなんだ……からぁ……」
「分かったよ……」
エリンの発した寝言を聞いて、ダンは苦笑した。
成り行きで拾ってしまったが、暫くはエリンをこの家に置くしかない。
ずっと地下で暮らして来た王族の箱入り娘だから、地上の事が分からないのは致し方ないが、エリンはあまりにも世間知らずだ。
それ故に、無防備で危なっかしい。
このまま突き放したら、どこぞで悪い奴に騙されて、酷い目に合うのは明らかである。
ダンは思う。
そんな薄情な事は到底出来ないと。
……ダンの心の中に大きな変化が表れていた。
いつもの自分なら、かかわりがないと、置いてくる筈だったのに……
ダンは改めてエリンを見る。
ずっと悪魔共と戦い続けて来たエリンは、やっと争いから解放され安住の地を得てホッとしたのだろう。
ダンが見守る中、安心しきって気持ち良さそうに眠っていた。
エリンの無邪気な顔を見てダンは「ふっ」と笑う。
喜びがこみ上げて来る。
「エリンを救って本当に良かった」と強く感じている。
絶対に守ってやらなければと思う。
自分に可愛い笑顔を向けて、こんなに慕ってくれる女の子が居るのだ。
いつもは『仕事』を終えて帰宅しても、虚しさしかないのに今夜は全然違うのだ。
暫く見守ってエリンが、完全に寝たのを確認すると、ダンは床に予備の毛布を敷いて横になった。
先の事は全くといっていいほど分からないが、暫くこのダークエルフのお姫様と暮らす……
いつもはひとりきりで食べる味気ない夕飯も、エリンと一緒に食べると確かに楽しかった。
まあ……良いか。
大きく息を吐いたダンは、やがて深い眠りに落ちて行った。