第34話「変身②」

文字数 2,150文字

 翌朝……

 変身の魔法の説明をする前に、『いちゃモード』へ入ってしまったふたり。
 改めて、説明を受けたエリンは吃驚してしまう。

 ダンの使う魔法は身長、体格、顔などの容姿は勿論、年齢や声までも自由に変えられるようだ。
 どうやら、身体強化という補正魔法の応用形らしい。
 半永久的に効果が継続し、術者以外は解く事が出来ない。 
 
 完璧な魔法に思えたが……元の寿命だけは変えられないと、ダンは言う。

 エリンは、とてもがっかりした。
 ダンに言われた、人間とエルフの寿命の差がいつも頭にあるからだ。

 数十年経てば、ダンの寿命が尽き、永遠にお別れとなってしまう。
 エリンは『覚悟』を決めているが、何か方法があってダンの寿命が伸ばせれば良いのにと考えていた。
 自分と同じくらい生きる事が出来ればと、エリンは願っている。
 いつか、何らかの方法を見つけるつもりだ。
 
 ダンの言う通り、彼は神様とは違う。
 そして万能ではないから、やはりダークエルフ達が言い伝えた『救世の勇者』でもない。

 でも、ダンはダンだ。
 エリンには、それで良い。
 優しいダンが居れば良い。
 ただ、それだけで満足なのだ。
 
 説明も充分になされたので、いよいよエリンはダンの魔法で変身する。

 未知の魔法で変身なんて……エリンはさすがに緊張する。
 身体が強張る。
 ガチガチだ。

「ははは、エリン、リラックスしろ。……深呼吸だ」

「う、うん……リラックスって落ち着けって事?」

「ああ、そうさ。それにすぐ終わる、痛くなんかないから安心しろ」

 エリンは、気を紛らわせるために色々と考える。
 ダンはまるで、ダークエルフの治癒士のようだと。

 小さい頃に転んで怪我をした時、彼等も優しく言いながら直してくれた。
 そういえば、ダンは治癒魔法も使えるんだ。
 頼もしい!

 しかし……とりあえず言われた通りにしなければ。
 ダンと約束したから。
 妻は夫に従うものだと、亡き父も教えてくれたから。

 エリンは、ダンに言われた通り大きく深呼吸をした。
 漸く落ち着いた。

 やっぱりダンは凄い!
 色々な事を知っている。
 まるで先生だ。

 エリンに微笑みが戻ったのを見て、ダンは椅子に座った彼女の前に立ち、言霊の詠唱を始めた。

 高く低く、部屋にダンの声が響いている。

「ダークエルフの気高き王女エリンよ! 今ここに人として、仮初(かりそめ)の姿を出現させるものなり!」

 ダンの双腕から、独特な魔力波(オーラ)が放出された。
 魔力波に包まれたエリンは、一瞬気が遠くなり、思わず倒れそうになる。

変化(ムータティオー)!」

 ダンの口から『決め』の言霊(ことだま)が発せられると、エリンの身体が眩い白光に包まれる。
 白光はエリンの全身を包み込み、並みの人間では正視出来ないくらいに眩しかった。

 暫し経ち、やっと発光が収まると、エリンは自然と手を耳へやった。
 驚くべき事に……
 魔法はエリンを、見事に『変身』させていた!
 
 手触りで分かる。
 いつもの、耳の形と……違う。
 尖っていない。
 そして、少しだけ大きくなっている。
 
 吃驚したエリンが慌ててダンを見ると、目の前に居る彼の手にはいつの間にか手鏡が握られていた。

「フィービーからたくさん服も貰ったし……今度、エリンの為に大きな姿見を買おう。まあ今日はこれで我慢してくれ」

「う、うん……」

 エリンはダンから手鏡を受け取ると、恐る恐るという感じで中を覗き込んだ。
 ダンの言った通りであった。
 鏡の中のエリンは、いつもと全く違っていたのだ。

 確かに顔立ちは変わっておらず、健康的なやや褐色がかった肌もいつものエリンと同じだ。
 
 しかし髪の色は、薄い栗色。
 驚いて大きく見開いた目に、輝く瞳はダークブラウン。
 そっと髪をかき分けた中から現れたのは……やはり人間の耳であった。

「髪の色が違う! エリンの瞳も違う! 耳が!? ……ダンと一緒だよぉ!」

 エリンが、大きな声で叫ぶ。
 完璧な人間の超美少女が、そこには居た。

「ははは、似合うぞ、エリン。でもその組み合わせの人間はそこそこ居るんだ。綺麗だけど在り来たりなのさ」

「これでエリン……ダンと同じ人間になったの?」

 エリンは、戸惑っている。
 外見は、確かに変わった。
 でもエリン自身は、変わったとは到底思えない。

 そんなエリンの気持ちを、見抜いたようにダンは言う。

「ああ、外見だけはな。魂は全く変わっていないが……どうだい、感想は? まあエリンはどうやっても可愛いから全然問題なしだ……人間になってもすっごく可愛いぞ」

「エリンがすっごく可愛い!? やったぁ! ダン、嬉しいよぉっ!」

 変身前、正直不安はあった。
 人間になるって、どんな事だろうと。

 しかし、やはりダンを信じてよかった。
 これで変な目で見られず、悪口も言われず堂々と王都を歩ける。
 そしてダンから、「凄く可愛い」と褒めて貰えた。

 エリンは喜びの余り、ダンに思い切り抱きついていたのであった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

☆ダン・シリウス

本作の主人公。人間族の男子。

魔法、体術ともに圧倒的な強さを誇る魔法使い。

特に火と風の魔法を得意とする。

飄々とした物言いだが、性格は冷静沈着、情に厚い部分も。但し、女性に対しては基本的に奥手。

召喚された異世界で、創世神の神託が出る度、世界へ降りかかる災いを払う役目を負わされた。

だが王都暮らしを嫌い、一旦役目を果たせば、次の神託まで、普段は山里に隠れるように住んでいる。

ある時『世界の災厄である悪魔王』を倒す仕事を請け負い、絶体絶命のピンチに陥ったエリンを、偶然に助けた。

☆エリン・ラッルッカ

地の底深く暮らす、呪われしダークエルフ族の王女。地の魔法の使い手。

突如、攻めて来た悪魔王とその眷属により、父と一族全員を殺される。

しかし、悲しみに耐え、前向きに生きると決意。

絶体絶命の危機を救ってくれたダンと共に、地上へ……

ダンの自宅へ強引に『押しかけ』た。

☆ヴィリヤ・アスピヴァーラ

エルフ族の国、イエーラから来た、アイディール王国王宮魔法使い。

水の魔法の使い手。エルフ族の長ソウェルの孫娘。

ダンを異世界から、『勇者』として召喚した。 

傲慢な振る舞いを、ある日ダンからたしなめられ、以来熱い想いを抱くようになる。

☆ニーナ

人間族の国アイディール王国王都トライアンフ在住の女子、ビストロ英雄亭に給仕担当として勤める。孤児であり、両親は居ない。双子の兄が居たが、ある迷宮で死んだらしい。

以前店で仕事中、ガラの悪い冒険者に絡まれた。だが、ダンに助けられ、彼に片思い状態である。

☆ベアトリス・アイディール

アイディール王国王女にして、創世神の巫女。

ある日突然、巫女の力を得ると共に、身体の自由を殆ど失い、更に盲目となった。

ダンに神託を与え、世界へふりかかる災厄を防ぐ。

巫女として役目を果たす事に生き甲斐を感じながら、自らの将来に対し、大きな不安を抱えている。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み