第131話「宝箱②」
文字数 2,790文字
と、いう事で、地下7階に居るダン達の前には、宝箱がひとつある。
床に「がっつり」固定された物で、簡単には持ち去れない。
また不思議な事に……
何らかの魔法が掛かっているのか?
それとも何者かが、気まぐれに入れて行くのか?
ランダムに、中身は変わるのだ。
そして、開けてみて吃驚する事も。
稀れにだが、『からっぽ』という、ハズレの場合もあるから。
……今は施錠されていて、新たなお宝が仕舞われているようだ。
当然、危なそうな罠も仕掛けられていた。
まあ苦労して開けて、万が一『からっぽ』だったら、目も当てられない。
エリンとヴィリヤが「暴れる!」事は間違いないだろう……
さてさて……
今更だが、シーフ不在のダン達はどうやって、この宝箱を開けるのであろうか?
エリン達の『おねだり』を渋々承知したダンではあったが……
一応、方法は考えていたようである。
期待に胸を膨らませ、ウキウキ気分のエリンとヴィリヤ。
そんなふたりへ、ダンは言う。
『エリン、ヴィリヤ、宝箱を開ける為に、お前達にも協力して貰うぞ』
『当然!』と、エリン
『喜んで!』と、ヴィリヤ。
『ねぇ、旦那様、どんどん指示をしてくれる?』
エリンが「にっこり」笑い、促す。
「準備はOK!」の雰囲気だ。
しかし、ダンはいつも通り慎重だ。
『前振り』を忘れない。
『ああ、俺の魔法でも罠の種類は特定出来ない。なので罠は敢えて無視。強引に開けるしかない。だから覚悟はしておいてくれ』
『という事は? 何? 旦那様』
『ダン、覚悟って?』
『ああ、もし仕掛けられたのが爆発系の罠だったら、宝箱ごと吹っ飛ぶからな。当然中身もおじゃんさ』
中身が「おじゃん!」と聞き、エリンとヴィリヤの表情が曇る。
『う~、それ悔しい』
『何とかなりませんか、ダン』
縋るようなふたりの顔を見ても、ダンはきっぱりと言い放つ。
『ならん! お前達の要望を聞いたんだから、それくらいは譲歩しろ。その代わり安全は優先されるから』
『う~、分かった』
『納得です。私達の安全には代えられませんね』
こうして……
宝箱は、いよいよ開けられる事となったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
15分後……
……ダン達の前の前にあった宝箱は……
もはや、完全に見えない。
何故ならば……
周囲を「ぐるり」と何重にも囲われているからである。
まずはエリンの地の魔法、
そしてヴィリヤの水の魔法、
無論、ダンも魔法を使う。
3人を守る為に魔法障壁を張るのだ。
物理的、魔法、両方に効果のある万能タイプの障壁である。
最後にダンが開錠の魔法を使う。
罠を解除せず、単純に蓋を開けるのだ。
当然、罠は作動してしまうから……何が起こるか予測出来ない。
なので、このような防護処理を施したのだ。
準備が整い、ダンが合図をする。
『さあ、じゃあ開けるぞ』
『いよいよだね!』
『わくわくですよ!』
何と!
エリンとヴィリヤは手を取り合っていた。
ふたりの仲はもう完全に親密となっている。
暫し経って、ダンの開錠魔法が発動され、宝箱の蓋は勢いよく跳ね上がった。
その瞬間!
迷宮内には、けたたましい音が鳴り響いた。
宝箱に仕掛けられていた『罠』は……『警報』であった。
これは魔法により、周囲の魔物を興奮させ、呼び集めた上で……
侵入者を喰い殺させるという間接的な罠だ。
襲来したのは、オーガとオークの混成軍であった。
当然、こんな奴等は敵ではなく……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……罠により、呼び寄せられた魔物との戦闘が終わった。
周囲に張り巡らされた遮蔽物も取り除かれ、いよいよ宝箱の確認である。
『ヴィリヤ、良かったね!』
『ええ、本当に、エリンさん!』
ふたりは「にこにこ」していた。
危惧していた『爆発系』の罠ではなかったからだ。
もし爆発したら、お宝ごと、破壊される可能性は充分にあった。
それに、エリンとヴィリヤは改めて認識していた。
ダンが宝箱を放置していた意味を。
たったひとつの宝箱を開く為に、ここまでの手間と危険が伴う。
もし今迄見つけた宝箱を、いちいち全て開けていたら……
まだまだクランは、浅い階層に居ただろうから。
そして……気になる宝箱の中身は……
『え~? アミュレットふたつだけ?』
『箱は結構大きいのに、中身はこれだけなんですね?』
ふたりは、宝箱の底にあった、ふたつの貴金属を凝視していた。
ダンから念を押されたので、いきなり手を伸ばして、拾い上げたりはしない。
お宝自身に呪い等、細工がされている場合もある。
ダンが魔法で『確認』し、危険が無い事を報せると……
エリンとヴィリヤは、とうとうアミュレットを手に取った。
ふたつとも、破邪の効果がある銀製の鎖を使ったペンダントである。
実のところ、エリンは宝石に少し詳しい。
『ええっと、ひとつはトパーズ、ひとつはローズクオーツだね』
『綺麗です!』
エリンはかつて王女だった頃、宝石が好きで多数所持していた。
地下世界では、普通の物資と比べ、金属や宝石は比較的楽に手に入ったから……
だが、アスモデウスとの戦いで全てが失われ、今はひとつもない。
一方、ヴィリヤは「普通に」宝石が好きでいくつか持っている程度だ。
『危険はないようだし、ふたりでそれぞれつけたらどうだ?』
ダンに言われ、ふたりは悩む。
お互い相談し、悩んだ末に……
エリンはローズクオーツ、ヴィリヤはトパーズを納得の上、選んだ。
『似合う?』と、エリン
『似合いますか?』と、ヴィリヤ。
ふたりは、アミュレットを首から下げると、ポージングをした。
『おお、似合うよ』
『やったぁ!』
『嬉しいです!』
ダンに褒められ、エリンとヴィリヤは満足そうだ。
『お約束』で、フィストバンプをした。
ちなみに、ローズクオーツは恐怖や嫉妬、悲しみ……そして『孤独』から守ってくれる宝石。
そしてトパーズは、暗闇に居る者へ、『希望の光』をもたらす宝石なのだ。
嬉しそうなエリン達を見ながら……
「この先で苦難が起こったら、アミュレットの加護があれば」と、ダンは優しく微笑んでいたのだった。