第47話「判定試験開始!」

文字数 2,489文字

 いよいよ……
 エリンの受ける、冒険者ギルドランク判定試験の開始である。
 審判役はクローディアであった。

 エリンとローランドは、10mほど離れて正対していた。
 双方を見たクローディアが、注意事項を確認する。
 急所への反則攻撃や戦意を失くした相手への攻撃継続など、禁止行為が告げられて行く。

 エリンも、武道の心得は亡き父からしっかりと教わっている。
 正々堂々と!
 フェアに!
 そういった『精神』はすぐ理解する事が出来た。
 
 エリンにとっては、久々の戦いである。
 魔力は、十分に高まっている。
 気力も、(みなぎ)って来る。

「お互いに礼」

 クローディアの指示に、エリンとローランドが一礼した。
 遂に、判定試験という名の試合が開始される。
 
「それでは試合開……「ちょっと、待ったぁ!」始……え!?」

 試合開始を宣言しようとした、クローディアの声を遮る大きな声が闘技場へ響く。
 3人から遥か離れた場所へ、控えているダンであった。

 ダンが、試合開始を止めたのは何故?
 驚き、そして訝し気な視線が一斉にダンへ向けられた。

「な、何でしょう?」

「ダン?」
「ダン殿?」

「クローディアさん」

 3人の中で、ダンが用事のあるのはクローディアであった。

「わ、私? ですか?」

「そう! 貴女だ、この試合に審判は無用、危ないからこっちへ!」

「審判は無用って!? 危ない? な、何を!?」

 いきなり外すように言われても、クローディアには納得出来ない。
 審判兼進行役は、判定試験には必要不可欠だからである。

 傍らで、やりとりを聞いていたローランドは納得するように頷く。

「ふうむ……分かった、クローディア、ダン殿に従いなさい」

 意外ともいえる、上司の決定に驚くクローディア。

「マ、マスター?」

「私に同じ事を何度も言わせるな、従いなさい」

「ほら、クローディアさん、早くっ」

「はいっ」

 上司とダンに促されたクローディア。
 彼女は、急いでダンの居る方向へ走り出した。
 
 速い!
 
 普段から鍛えているらしく、素晴らしいスピードである。
 あっという間に、ダンの傍らに並ぶ。

「OK! じゃあ!」

 ダンは微笑み、指をピンと鳴らす。
 瞬間!
 膨大な魔力がダンから放出され、4人をぐるりと取り囲んだ。
 ダンが発動したのは、物理兼魔法対応の強力な魔法障壁であった。
 広大な闘技場のフィールドを、「すっぽり」と覆った形である。

「むう! 成る程!」

 自分の周囲に張り巡らされた、強力な魔法の壁を感じ、唸るローランド。
 ダンの底知れぬ力に驚嘆すると同時に、『意図』もすぐに理解したようである。

「わぁ! ダン、凄いっ」

 片や無邪気に喜ぶエリン。
 そして……

「な!? こ、これは! ダン様」

「大丈夫だ、クローディアさん、俺の魔法でほんのちょっと囲っただけさ。大事なギルドの闘技場を……壊すわけにはいかないだろう」

 驚愕するクローディアに対し、「しれっ」と言うダン。

 実の所、クローディアはダンの『正体』を知らない。
 上司のローランドからは、単に国家機密的な存在だとしか、報されていないからだ。

 クローディアは、ふと思い出す。 

 ダンという青年が初めてギルドへ来た時はひとりの美しいエルフ女性と一緒だった。
 クローディアは、そのエルフ女性を見て驚いた。
 彼女は、誰もが知るこの国の有名な王宮魔法使いであったからだ。

 エルフ女性=アイディール王国の王宮魔法使いヴィリヤ・アスピヴァーラは……
 ギルドマスターのローランドへ、ダンの名を告げ、冒険者として手解きして欲しいと申し入れた。
 そして、別室を用意するようにクローディアへ命じると、3人で何か密談をしていたのである。

 こうして……
 ランクD冒険者ダン・シリウスは誕生したのである。
 奇妙な事に、登録に必要な通常の講習とランク判定試験は免除された。
 これは、異例の事であった。
 通常冒険者ランクは余程の武勲など功績や、並外れた能力がなければ最低ランクのGもしくはFと認定される。
 Dとはもう、中堅の冒険者だと認められた事になるのだ。

 しかし……
 ダンの素質は、素晴らしかった。
 興味を持ったクローディアは試しに練習試合をしてみたが、ダンはランクAの自分を簡単にあしらうほど、凄まじい実力の持ち主であったのだ。

 ダンには、特別な秘密がある……
 クローディアはそう思ったが、上司のローランドが沈黙しているのに騒ぎ立てるほど野暮ではない。

 やがてダンはソロ冒険者として、または他のクランと組み様々な依頼をこなして実績を作り、ランクを上げて……行った。
 クローディアが見る限り、ダンは全く自分の実力を出してはいない。
 そして高難度の実入りの良い依頼も、敢えて避けていた。
 これはまた、不思議な事である。

 冒険者は、金と名誉を求める。
 報酬の高い依頼をどんどん完遂し、実績に見合った上級ランカーを目指すのが普通なのだから。

 こうしてダンは実力に見合わない、『ランクB』の冒険者として、この王都では知られる存在となったのである。

 ランクBに昇格してから暫くして……ダンの姿は王都から消えた。
 クローディアが聞いた人々の噂では、ダンは旅へ出たらしいという事であった。
 行先は……誰も知らないという。

 ローランドも相変わらず何も語らない。

 それから暫し月日が流れ……ダンは王都へ戻って来た。
 また、すぐ居なくなる。
 
 そのパターンの繰り返しであった。

 本日、ダンはまた王都に現れた
 驚く事に今回は何と!
 可愛い妻を連れて戻って来たのだ。
 エリンという美しい少女を。

 これから何が……始まるのだろう?

 クローディアは、微笑むダンを見た後……
 対峙するエリンとローランドを、興味深そうに「じっ」と見守ったのであった。
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登場人物紹介

☆ダン・シリウス

本作の主人公。人間族の男子。

魔法、体術ともに圧倒的な強さを誇る魔法使い。

特に火と風の魔法を得意とする。

飄々とした物言いだが、性格は冷静沈着、情に厚い部分も。但し、女性に対しては基本的に奥手。

召喚された異世界で、創世神の神託が出る度、世界へ降りかかる災いを払う役目を負わされた。

だが王都暮らしを嫌い、一旦役目を果たせば、次の神託まで、普段は山里に隠れるように住んでいる。

ある時『世界の災厄である悪魔王』を倒す仕事を請け負い、絶体絶命のピンチに陥ったエリンを、偶然に助けた。

☆エリン・ラッルッカ

地の底深く暮らす、呪われしダークエルフ族の王女。地の魔法の使い手。

突如、攻めて来た悪魔王とその眷属により、父と一族全員を殺される。

しかし、悲しみに耐え、前向きに生きると決意。

絶体絶命の危機を救ってくれたダンと共に、地上へ……

ダンの自宅へ強引に『押しかけ』た。

☆ヴィリヤ・アスピヴァーラ

エルフ族の国、イエーラから来た、アイディール王国王宮魔法使い。

水の魔法の使い手。エルフ族の長ソウェルの孫娘。

ダンを異世界から、『勇者』として召喚した。 

傲慢な振る舞いを、ある日ダンからたしなめられ、以来熱い想いを抱くようになる。

☆ニーナ

人間族の国アイディール王国王都トライアンフ在住の女子、ビストロ英雄亭に給仕担当として勤める。孤児であり、両親は居ない。双子の兄が居たが、ある迷宮で死んだらしい。

以前店で仕事中、ガラの悪い冒険者に絡まれた。だが、ダンに助けられ、彼に片思い状態である。

☆ベアトリス・アイディール

アイディール王国王女にして、創世神の巫女。

ある日突然、巫女の力を得ると共に、身体の自由を殆ど失い、更に盲目となった。

ダンに神託を与え、世界へふりかかる災厄を防ぐ。

巫女として役目を果たす事に生き甲斐を感じながら、自らの将来に対し、大きな不安を抱えている。

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