第108話「迷宮初心者②」
文字数 2,124文字
主導するのは当然、クランリーダーのダンである。
これから迷宮深くへ乗り込む……
クラン
とても張り切っていたエリンだったが、少し表情が暗くなっていた。
理由は……念話にあった。
念話自体は、素晴らしい魔法だと思うのだが……
エリンには、ひとつ大きな心配があったのだ。
念話を習得して会話した際、もしもヴィリヤに、自分の心の内を見られたら……
エリンの『正体』、つまりダークエルフだという事が、あっさりばれてしまうのでは……
そんな危惧であった。
エリンの不安が、大きな波動となってダンへ伝わって来る。
しかしダンは、エリンだけに念話で内々に説明してくれた。
安心して、念話を習得するようにと。
さすがに、ダンは抜かりがない。
念話を使うと決める前に、きちんと手を打っていたのだ。
果たして、どんな手を打ったのか?
ダンは、ちゃんと説明してくれた。
まず……
念話自体はエリン達が習得するまでは、ダンが居ないと使えない。
また全ての会話は、ダンを介して伝えられる。
以上の事実がある。
つまり……現状では、エリンとヴィリヤふたりの間で、念話を使って話す事は出来ない。
だからヴィリヤに直接、エリンの心の内を見られる心配はないのだ。
更にダンは、エリンの心に『ある仕掛け』もしてくれた。
当然だが、特別な魔法を使ってである。
エリンとヴィリヤがもし念話を習得したとして……
誤ってエリンが、自身の正体を心に思い浮かべても、ヴィリヤには見えないようにしてくれたのである。
どう魔法を使ったのか、表現が難しいが……
心の一番奥にある、秘密の引き出しに鍵をかけてしまってくれた。
そんな言い方が、妥当であろう。
ダンの㊙の手立てを聞き、エリンの表情がみるみるうちに明るくなって行く。
やっぱり、ダンは頼もしい。
エリンの事を、いつもしっかり考えてくれている。
本当に嬉しい。
例えるなら、愛と信頼が限界値を遥かに超えるくらい、ダンが大好きで信じられる。
やっぱり、ダンは運命の人なのだと、エリンは思うのだ。
込み上げる喜びを隠し切れず、ダンに向かって、エリンは「にっこり」と笑いかけた。
しかし、ダンは素知らぬ顔で話を続ける。
『まずは基本方針、ミッションの成功の可否に関わらず生きて帰還する事。チャーリー達行方不明者には悪いが、俺達自身の命と身の安全が第一。その上でミッション完遂を目指す』
『了解!』
『理解しているわ』
エリンの機嫌の良さが、ヴィリヤにも伝わる。
すると、少しずつ距離の縮まったヴィリヤの気持ちも温かくなる。
ふたりから、元気の良い返事を聞いたダンの口調は、ますます滑らかになって行く。
『次にクランに関して……クランが発揮する力とは個人技よりも総合力だ。つまりバランスが大事。全員の力を合わせて、この迷宮を生き抜いて出る。当然怪我もしないように。その為には、お互いに足りない部分を補い合って勝利するんだ』
『了解!』
『りょ、了解!』
気分が良くなったヴィリヤは、エリンが使う返事を使ってみた。
少し噛みながらも、何とか言えた。
エリンと同じ返事をして、ヴィリヤはとても気持ちが良い。
ダンやエリンと、更に距離が縮まった気がした。
ふたりがノリを良くして行くのを見て、ダンは嬉しそうに話を続ける。
『ははは、改めて3人の役割をおさらいする。俺が盾兼攻撃役、エリンが攻撃&支援役、ヴィリヤが支援と回復役。ちなみに俺も回復魔法を臨機応変に使う』
ここでエリンが、「さっ」と手を挙げる。
『ねぇ、旦那様、偵察役が居ないけど……すなわちシーフの役目は? エリンがやりたいっ、相手の気配を読めるものっ』
『いや、出発したら、人目のない場所でケルベロスを呼ぶ。彼に先行して貰いシーフ兼攻撃役をやって貰う』
ケルベロスが先導役?
エリンが、あからさまにがっかりする。
自分が、先頭に立ちたいと思っていたから。
『う~、エリンが、敵の気配を読んでシーフやりたいのに、つまんないっ』
『ははは、少し経てば、エリンには嫌でもいっぱい働いて貰う事になる。私は暇よ、なんて絶対に言わなくなるぞ』
『そ、そう? ならオッケー!』
やる気を見せるエリンに、相当刺激されたのだろう。
ヴィリヤが、おずおずと聞いて来る。
『ダン、わ、私は?』
『うん、お前も迷宮は初めてだが、エリンに比べると、実戦経験が圧倒的に不足している。まずは後方から魔法中心に対応して欲しい。まあ少しは接近戦もこなすだろうが、魔法に比べればそう得意じゃないしな』
『少しは接近戦をこなす? ううん、全然いけるわ。け、剣技ならそこそこは……この国へ来る前に、イエーラで、しゅ、修行したもの』
ヴィリヤはそう言うと、着ている