第145話「運命の岐路①」
文字数 2,615文字
「では……私から話をしよう。少々長くなるが、我慢して聞いて欲しい。質問は、とりあえず控えてくれ」
「………」
まずは話を聞いて貰う。
そして状況を理解して貰う。
反論は勿論、質問をされると話が滞る事を懸念しているらしい。
どちらにしても……
いよいよ秘密が明かされる。
リストマッティの話を、ダンとエリンは割と平静に聞いていた。
ヴィリヤはといえば、少々緊張しているようだ。
「それと私の話に、嘘偽りはない、創世神様に誓おう」
「…………」
「世界が原初と呼ばれる、
「…………」
「先に生まれたのは……デックアールヴと呼ばれる種族だ。身体は頑健で健康的な美しさに溢れ、素晴らしい運動能力を持ち、魔法にも長け、バランスに優れていた」
「…………」
「次に……リョースアールヴが生まれた。身体こそ華奢だが、透明感のある美しい容姿に恵まれ、魔法に長けた種族だ」
「…………」
「ふたつの種族は……同じアールヴ族として、仲良く暮らしていた。争いなど一切起こさずに」
「…………」
「ここで……アールヴ族の長ソウェル、本来の意味について説明しておこう」
「ソ、ソウェル、本来の……意味?」
ヴィリヤが小さく呟く中、リストマッティは話を続ける。
「うむ、ソウェルとは……」
「…………」
「……元々、両アールヴ族を束ねる者を指す称号だった」
「え?」
ソウェルとは……
リョースアールヴの長だけを指す称号ではなかった……
ヴィリヤの心に、衝撃が走った。
「まあ……言葉自体の持つ意味は変わっていない。分かるだろう? 地上に振り注ぐ光の大元、太陽……という意味だ」
「…………」
「両者の長同士が話し合い……結局、初代ソウェルはデックアールヴ族の長ラッルッカが就任した」
「ラッルッカ……」
今度はエリンが呟いた。
自分の『姓』である。
一方ヴィリヤは大きく目を見開き、固く拳を握り締めていた。
「しかし……両族の平和は長く続かなかった。まもなくリョースアールヴ初代の長が亡くなり……後を継いだ若き2代目の長が、邪な野心を抱き、デックアールヴを陥れたのだ」
「え!? そ、そんな!」
ヴィリヤは首を振り、エリンは静かに目を閉じる。
「…………」
「2代目リョースアールヴの長は……天の使徒達へ上申した。デックアールヴ達の力は世界の均衡を崩すと虚言を弄した」
「…………」
「何故ならば、後を継いだリョースアールヴ2代目の長はデックアールヴの力を妬み、そして怖れたのだ」
「…………」
「デックアールヴの持つ力とは……創世神様から与えられた、神に匹敵する力……他者の気持ちを読み、心の傷を癒し、前を向く勇気を与える力……」
「…………」
「リョースアールヴ2代目の長は、このままでは……我が一族は見放される。創世神様の加護はデックアールヴ族だけに与えられると思い込んでしまった……」
「…………」
「上申は、全くの秘密裏に行われた。デックアールヴ達は、怖ろしい陰謀が進行しているのを知る由もなかった」
「…………」
「怖ろしい事に、天の使徒達は、偽りの上申を受け入れた……信じられない事だが、使徒達でさえ、デックアールヴの力に嫉妬していたのだ」
「…………」
「だが、当然疑問が出るだろう」
「…………」
「全てを見通す、全知全能の創世神様が……そのような偽りの上申など受け入れる筈がない……何の罪もないデックアールヴを仕置きするなど……もしも世に正義があれば、そう考えられる」
「…………」
「しかし何と! 創世神様は……使徒を通じ、デックアールヴ一族全てに、追放を命じられた」
「…………」
「この深き地の底へ……」
ここまで話すと、リストマッティは
配下のラッセ達も同じく、
そして一斉に取り去った。
現れたのは、ダンの予想通り……
擬態前のエリンに良く似た容姿と褐色の肌を持つ、デックアールヴ……
すなわちダークエルフと呼ばれる者達だったのである。
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リストマッティは、見た目は50歳くらいの男である。
苦み走ったという言葉がぴったりの、二枚目であった。
しかし同じデックアールヴでも、エリンとは少し雰囲気が違う。
ダンは少しだけ違和感を覚えた。
「ここまで、私の話を聞けば、もう分かるだろう」
「…………」
「私達はデックアールヴ族の子孫なのだ。そしてかつての君の友たちは、今や私達と共に歩む事を決意した、新たな同志である」
「…………」
「話を元に戻そう……デックアールヴ達は地の底に落とされてから、2派に分かれた」
「…………」
「長、つまりラッルッカとその一族、そして彼を慕う多くの者達は、もっと深い地の底へ降りて行った」
「…………」
「ラッルッカ達は、私達の先祖と全く違う考えを持っていた。大いなる創世神様の言い付けに従い、永遠に深い地下で暮らすと宣言して、私達と、たもとを分かった」
「…………」
「片や、この地へ残った私達の先祖はいつか……輝かしい地上へ戻る事を決めた。けして諦めないと決意したのだ」
「…………」
リストマッティから語られる、恐るべき真実……
エリンの先祖は、地上から追われ……
ひたすら愚直に創世神の命を守り、深い地の底へ降りて暮らしていた。
だが地の底も平穏な場所ではなかった。
侵入して来た悪魔共により、全員が殺されてしまった。
創世神様!
デックアールヴは……
何も悪い事をしていないのに……
どうして、ダークエルフなどと蔑称され、地の底へ落とされたの……
お父様とみんなは、何故、死ななければならなかったの?
エリンの心の中に、疑問と慟哭が嵐のように吹き荒れる。
大きく見開かれた彼女の目は、遥か遠くを見つめ、涙がとめどなく流れ出ていたのである。