第178話「輝かしい未来へ②」
文字数 2,648文字
ここは、シリウスの町内である。
あちらこちらで、まだまだ新たに建物を造る音が聞こえている。
宰相フィリップの手配で王都トライアンフからの街道も完成。
綺麗な石畳が敷かれた立派なものだ。
またシリウスからリョースアールヴの国イエーラの王都フェフへの街道も、ソウェルのヴェルネリにより改めて整備された。
それ故……シリウスへの人々の往来は著しく多くなった。
救世の勇者の居る町と聞き付け、訪問する商人達も増えて行った。
現在、シリウスの人口は500人余り。
ほんの小さな町だが、広大な敷地にはまだ充分余裕がある。
更なる拡大もOKだし、今後もたくさん移住者を受け入れる事が可能な仕様だ。
実際、地上からダンを慕う者が、そして地下からもデックアールヴの国にゆかりのある移住者が流入し、人口は着実に増え続けていた。
地下からの移住者で、容姿がデックアールヴに極めて近い者は、当然ダンの魔法で移住前に擬態している。
そして、町内にある店は多種多様、生活に必要なものは全て揃っていた。
住む町民は、王都から離れた田舎なのに、暮らす不自由さを全くといって良いくらい感じない。
数多ある店の中で……
とある一軒の、
達筆な文字で店名が記されていた。
ご存知、あのモーリスの店である。
ダンとの約束通り、英雄亭は王都から移転した。
改めて、この町で新規開店をしたのである。
新英雄亭は王都にある時と同様、常に混んでいた。
冒険者に底知れぬ活力を与える料理、まるで人生の楽しみを凝縮したような酒の美味さ、そしてニーナを含め、美しい少女達がメイド服姿で優しく給仕してくれる事で、圧倒的な人気があったのだ。
その新英雄亭では……
チャーリー達クラン
すっかり中堅クラスの冒険者クランとなった
閑話休題。
新天地シリウスに来たモーリスだが、毎日が楽しく元気一杯である。
仕事が、充実しているのは勿論だが……
一番大きいのは、ストレスがない事。
ストレスとはすなわち、実の娘に等しいニーナと、もう二度と離れ離れにはならない事。
ダンに言われた通り、今後ニーナに子供が生まれたら……
超が付く猫かわいがりの『じいじ』になるのは確実であった。
そのニーナは、当然夫のダンと同居。
城館に住んでいて、城館内の事務仕事と英雄亭ホールスタッフの掛け持ちで忙しい。
シリウスの治安は良いが、念の為、行き帰りはアルバート&フィービー夫妻達従士の警護付きである。
捨て子で薄幸だったニーナは……
双子の兄のルネとも無事再会し、毎日が幸せMAXである。
今の生活は夢みたい……というのが口癖になっている。
心が満ち足りたニーナが、ふと仕事の手を休め、遠い目をして空を眺めていたのは……
ベアトリス同様、不在である夫ダンの帰りを「少しでも早く!」と待ちわびているのであろう。
そのニーナの双子の兄ルネは……冒険者をあっさりと引退した。
元々、金細工職人志望だった彼は、ダンの援助もあり、シリウスに立派な店を出したのだ。
ルネの腕は確かで、アイディール王家を含め、たくさんの顧客を抱え、最近は弟子まで取った。
まもなく、地下都市で知り合ったデックアールヴの娘と結婚するという話であり……末永く幸せに暮らすに違いない。
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そして、ここは……
アイディール王国から、遠く離れた某国……
この国は、凶悪な魔物が出没するが、軍はとてもぜい弱であり、まともには戦えない。
辺境に近い遠国の為、冒険者達も滅多には訪れない。
住まう人々は、魔物どもに蹂躙されるがままであった。
ダン達は……この国へ来ている。
害を為す魔物共を討伐し、人々に安らぎを与える為に。
当然、この国の王の了解は得ていた。
否、了解ではなく、「遂に待ち人が来た!」と大歓迎されていた。
何故なら、救世の勇者ダンが率いる、聖なるクランなのだから。
メンバーはダン以下、エリン、ヴィリヤ、ゲルダ、そしてローランド、クローディアの6人である。
かつてエリンが交わした『約束』は遂に果たされたのだ。
この6人で、超が付く強力なクランを組んだのである。
ちなみにクランの名は……
今は亡きローランドの息子ディーンの遺志を継ぐ!
という意味で、『ディーン』と名付けられた。
現在、クラン『ディーン』は、人間を貪り喰らう凶悪な邪竜の群れと戦っていた。
しかし普通なら、人間が絶対に敵わない巨大な邪竜も、ダン達クランの敵ではなかった。
この国へ来て、たった3日で……
数十頭も居た邪竜共は、ほぼ全滅させられていたからだ。
もはや、クランディーンは、世界最強のクランとなったのである。
圧倒的なダン達の力に人々は感謝した。
そしてほめたたえた。
王を含めた人々がクランディーンに感謝し、熱く支持するのは、何と言っても、この国へ来た理由がしっかりしているからだ。
強大な力を振るうダン達だが、絶対に民から怖れられる事はなかった。
その理由は、ダンの妻ベアトリスからの神託である。
ダン達は創世神の名のもとに戦ったのだ。
最早、創世神の巫女ではなくなったベアトリスだが……
救世の勇者の妻として、彼女は創世神の神託を告げる役回りとなった。
今回の討伐も、当然神託によるものである。
最後の邪竜一頭を倒し、神託により命じられた仕事は終わった。
クランディーンのメンバーは、怪我もなく全員無事だ。
救われた人々の感謝を一身に受け、ダン達は帰還する。
愛する家族、仲間が待つシリウスへ。
いつもの通り、帰還の合図をするのはクランリーダーのダンである。
「さあ、皆、そろそろ帰ろうか」
「「「「「はいっ!」」」」」
全員が返事をし、ほどなく、地界王アマイモンの加護による転移魔法が発動する。
一瞬にして消えるダン達の姿は、救世の英雄の伝説を、より高める事となったのであった。