第138話「未知の世界へ②」
文字数 1,996文字
「私の気持ちは変わりません! ダンと結婚したい!」
やはり変わらぬ、揺るがぬ、ヴィリヤの気持ち。
ダンへの深い愛……
こうなると、ダンも考えていた事の『実行』を決めたようだ。
「そうか、分かった! 地下10階に着いたら、お前との結婚について話すと約束した。今後の事もあるから、ここで決着をつける」
この異界で?
決着?
何故?
さすがに、ヴィリヤも驚いて目を丸くする。
「ここで決着! ……ですか?」
「そうだ……俺の妻になるのなら、当然、先輩ふたりと一緒に、仲良く暮らさなきゃいけない。その自信はあるか?」
「先輩ふたり……ああ、エリンさんとニーナさんですね」
「そうだ、仲良くすると誓えるか?」
ヴィリヤは、エリンを見た。
エリンは、ニーナへ「カミングアウト」した時とは全く違っていた。
俯きなどせず堂々と、真っすぐにヴィリヤを見つめていた。
ヴィリヤは、思う。
この迷宮に入ってから、どれだけエリンに支えて貰ったか。
ダンとの恋も含め、何度も折れそうになった心を、労りしっかり守ってくれたのは……
正真正銘、エリンなのだ。
「ええ、全く問題ありません。私、エリンさんが大好きですから」
「よし、お前の気持ちに偽りはないな?」
「はい! 創世神様に誓って」
「……よし、ならば言おう。順を追って話す。まずエリンとニーナは魔族だ。それでも誓えるか?」
ダンは『ニーナの時』と同じ作戦に出た。
普通なら「どん!」が付くくらい、引いてしまう衝撃の事実だ。
エルフであるヴィリヤは、ダークエルフに対して、とんでもない嫌悪感を抱くと思われる。
「これくらいのショック療法を施さないと効かない」と、ダンは考えたのだ。
「ま、魔族! エリンさんが!? 嘘!?」
「真実だ。しかし俺はふたりを愛している。そして結婚した」
ダンは「しれっ」と言い切った。
「エリン達が、魔族だ」と告げたのは真実だと。
こんな場合は、嘘も方便……なのである。
「…………」
「俺が魔族と結婚しても、お前から与えられた務めはしっかり果たしている。この世界に何の迷惑もかけていない。全く問題はない」
「…………」
「エリンとニーナを受け入れられないのなら、ここで話は終わりだ。しかし、お前はエリンが大好きだと言った」
「…………」
「しかし魔族なら嫌いになるのか? それはお前に対し、明らかに害を為した場合だろう?」
「…………」
「お前に対し、エリンは何をしてくれた? 良く考えてみろ」
ダンのこの問いに対し、ようやくヴィリヤは答えを返す事が出来た。
「…………励まし、支えてくれました」
「だろう? 人間やアールヴに対し、
「…………」
「俺はな、ヴィリヤ。お前には物事の本質を見極めて、正しい判断をして欲しいんだ」
「物事の本質を見極める……正しい判断……」
「そうさ! 誰かが言ったから信じるとか、伝統だから正しいとか、そんなうわべに騙されず、いろいろな角度から物事を見て、自身の判断をして欲しいんだ」
「…………」
「世の中がひっくり返るとか大きな事ではなく、些細な事かもしれないが……俺とお前の経験の中で、常識って奴が
「ありました!」
ヴィリヤの中で、ダンとの様々な思い出が甦る。
鮮やかに、はっきりと。
そして実感する。
今迄に自分が「絶対だ!」と、信じていた常識が何という脆いものかと……
あれこれを「つらつら」と考える中……
ふと、視線を感じたヴィリヤは、本能的に相手を見た。
見ているのは、エリンであった。
まるでヴィリヤを射貫くような強い眼差しは、真っすぐな意思が籠められていた。
ヴィリヤは更に思う。
そうだ!
私が、生まれて初めての迷宮探索で、ここまで来れたのは、エリンさんに支えて貰ったからだ。
これから、生きる張り合いを与えてくれたのもエリンさんだ。
夫に恋する女性を励まし、愛を成就しろと言ってくれたのだ。
人間であれ、魔族であれ、そんな人は、どこを探したって居ない……
それに、私だって、エリンさんを支える事が出来た。
意外な脆さをさらした彼女を、自分が何とか助ける事が出来てどうだったか?
ヴィリヤは改めて自問自答した。
答えは、はっきり出た。
大きな歓びに満ちた答えが、即座に出たのだ。
エリンさんを助けられて、凄く凄く、嬉しかった!!!
その瞬間、ヴィリヤはエリンに負けないくらい、強い眼差しを返す事が出来たのであった。