第132話「確信」

文字数 2,529文字

 「なんやかんや」ありながら……
 地下7階を難なくこなしたダン達は、更に地下8階へ到達した。

 魔物は下層へ行くほど、強くなる。
 それは、このフロアでも変わらない。

 この地下8階で探索者達を襲うのは、主に『上位種』である。
 そうギルドの地図には記載してあった。

 上位種とは文字通り、『希少種』とも言われ、通常の個体、すなわち普通種より能力上位といわれる存在だ。
 ごく稀な確率の、イレギュラーで誕生する。

 身体、膂力、そして魔力等々……
 通常の個体の数倍以上の能力を有するのだ。

 ギルドの地図は正確であった。
 オークの上位種オークジェネラル、オーガの上位種オーガキングなどが、『配下』を引き連れ襲って来たのだ。
 無論、ダン達を『餌』として捕食する為である。
 ちなみに、オークの場合は性的欲求を満たす事も含んでいるのだが……

 しかしダン達の戦いは、通常種に対するものと、全く変わらなかった。
 力加減を、若干変えただけだ。

 火蜥蜴とケルベロスが吐く猛炎、ヴィリヤの氷化魔法、エリンの岩弾、そしてダンの爆炎をパワーアップして対処したのである。

 こうして……
 ダン達は出現した魔物を全て蹴散らし、難なく地下9階へ到達した。
 いよいよ、最下層の地下10階は目前である。

 気合が入りまくりの、エリンとヴィリヤへダンは言う。
 何となく、教師然としている。
 
『ふたりとも、順調な時こそ気を抜くなよ。好事魔多しと言うからな』

 ダンの言葉にすかさず『反応』したのは、エリンである。

『ねぇ、ダン、それ(ことわざ)?』

『ああ、エリン、諺だ』

『教えて!』

 ダンから教わるのが好きなエリンは、「もっと!」とせがむ。
 ヴィリヤも同様である。

『うん、私も知りたい』

 そんなふたりに対し、ダンは簡単に説明してやる。

『文字通りさ。さっきも言ったが、順調な時こそ、突然邪魔が入ったり、気付かない所に落とし穴がある。油断大敵って諺もあるぞ』

『成る程!』
『慢心はいけないって事ですね』

 こうした会話で分かる通り、3人の気持ちは、今やひとつだ。

 そんなこんなで、「どんどん」進む3人であったが……
 この地下9階も8階同じく、上位種がどんどん襲って来る。

 そして何体か、上位種を倒した後に現れたのは……
 今迄に出現した、オーガキングよりふた回り以上も大きい個体であった。

 一応、3人は相手の様子をうかがう。

『ヴィリヤ、あいつ、手ごわそうだね……』
『ですね、エリンさん、結構強そう』

 凶悪な形相の敵を遠くから見やるエリンとヴィリヤ。
 ダンも、真っすぐに『敵』を見据える。

『あいつは、オーガの中では最上位種のオーガエンペラーだ』

『旦那様! オーガエンペラー? 初めて見るよ』
『エ、エンペラーですか? 確かに大きくて、風格はありますね、成る程……』

 「ポン」と手を叩いたダン。
 何か、思いついたようだ。

『よし、ここは俺に考えがある』

『え? 旦那様、考え?』
『ダン、どうするつもりですか?』

 というエリンとヴィリヤへ……

『ここは俺が単独で行こう』

 何と!
 ダンはひとりで戦うと申し出たのである。
 こうなると、

『え? どうして?』
『そうですよ、ダン。さっき言った諺と反します。言行不一致って事ですよ』

 責める? ふたりに対し、ダンは「しれっ」と笑う。

『ははは、まあな。だが……大丈夫、お前達なら、分かるだろう? アスモデウスが物差しだ』

『アスモデウス!?』
『ダン!』

 ダンは何か指示を出したらしい。
 火蜥蜴はオーガ共を一段と明るく照らすと、ケルベロスは飛び退り、エリンとヴィリヤを守るよう、ふたりの前面に立った。

 ケルベロスとは対照的に、ダンは「ずいっ」と前に踏み出したのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 エリンとヴィリヤが見守る中……

 ダンは「どんどん」進んで行く。
 何体もの火蜥蜴に煌々と照らされ、真っ赤に染まったオーガ共は……
 先程から全てが興奮と憤怒の表情を浮かべ、思いっきり咆哮していた。

 最初ダンが単独で行くと言った時ほど、エリンとヴィリヤは心配していなかった。
 ダンが告げた物差しだと言った名前……『悪魔王アスモデウス』というとんでもない敵の名がその理由だ。

 アスモデウスは……
 
 エリンにとっては、『一族の憎き仇』であり、ヴィリヤにとっては、創世神から下された神託にあった、『世界の災厄』の根源だ。

 ふたりに共通していたのは、アスモデウスがとんでもない強敵だという事、そしてダンがあっさり倒してしまった事。

 『物差し』というのは、「アスモデウスを基準に考えろ」というダンの投げ掛けだ。
 または、ダンの安否を心配するふたりに対し、「懸念を払拭しろ」という投げ掛けでもある。

 そうはいっても、ヴィリヤは不安が少しだけあった。
 ダンが、アスモデウスを倒したのは紛れもない事実である。
 だが……
 実際に彼がその悪魔王と『戦う場面』を見てはいない。

 そして、疑問もある。
 あのような諺を、敢えて言いながら……
 「何故、ダンは単独でオーガ共に戦いを挑むのか?」という、「もやもや」した疑問だ。

 ヴィリヤは、ふとエリンを見た。
 もう、癖になったと言って良い。

 果たして……
 エリンは、目を「きらきら」させていた。
 まるで、「あの時と同じ! ダンは、私の王子様!」とでも言うように……

 すかさず「ピン!」と来た。
 ヴィリヤは、もう確信した。
 エリンは……アスモデウスを倒した『現場』に居たのだ。
 間違いなく!

 そしてダンは、悪魔王アスモデウスから助けたのだ。
 目の前の、この美しい少女を!

 やはり、エリンには大きな秘密がある。
 ダンと結ばれた、それも固く固く結ばれた絆にも関わる重大な秘密が……

 知りたい!
 その秘密を!

 ヴィリヤはそう思うと同時に、またも『複雑な感情』が心を満たしたのであった。
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登場人物紹介

☆ダン・シリウス

本作の主人公。人間族の男子。

魔法、体術ともに圧倒的な強さを誇る魔法使い。

特に火と風の魔法を得意とする。

飄々とした物言いだが、性格は冷静沈着、情に厚い部分も。但し、女性に対しては基本的に奥手。

召喚された異世界で、創世神の神託が出る度、世界へ降りかかる災いを払う役目を負わされた。

だが王都暮らしを嫌い、一旦役目を果たせば、次の神託まで、普段は山里に隠れるように住んでいる。

ある時『世界の災厄である悪魔王』を倒す仕事を請け負い、絶体絶命のピンチに陥ったエリンを、偶然に助けた。

☆エリン・ラッルッカ

地の底深く暮らす、呪われしダークエルフ族の王女。地の魔法の使い手。

突如、攻めて来た悪魔王とその眷属により、父と一族全員を殺される。

しかし、悲しみに耐え、前向きに生きると決意。

絶体絶命の危機を救ってくれたダンと共に、地上へ……

ダンの自宅へ強引に『押しかけ』た。

☆ヴィリヤ・アスピヴァーラ

エルフ族の国、イエーラから来た、アイディール王国王宮魔法使い。

水の魔法の使い手。エルフ族の長ソウェルの孫娘。

ダンを異世界から、『勇者』として召喚した。 

傲慢な振る舞いを、ある日ダンからたしなめられ、以来熱い想いを抱くようになる。

☆ニーナ

人間族の国アイディール王国王都トライアンフ在住の女子、ビストロ英雄亭に給仕担当として勤める。孤児であり、両親は居ない。双子の兄が居たが、ある迷宮で死んだらしい。

以前店で仕事中、ガラの悪い冒険者に絡まれた。だが、ダンに助けられ、彼に片思い状態である。

☆ベアトリス・アイディール

アイディール王国王女にして、創世神の巫女。

ある日突然、巫女の力を得ると共に、身体の自由を殆ど失い、更に盲目となった。

ダンに神託を与え、世界へふりかかる災厄を防ぐ。

巫女として役目を果たす事に生き甲斐を感じながら、自らの将来に対し、大きな不安を抱えている。

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