第140話「未知の世界へ④」

文字数 1,896文字

 ダン、エリン、ヴィリヤ……3人はまだ、ダンの創った異次元空間、すなわち異界に居た。
 しかし、話を始めた時の緊迫した雰囲気は微塵もない。
 とても、(なご)やかなのである。

「あはは」

「うふふ」

 お互いの心と心が通じ合ったエリンとヴィリヤは、嬉しそうに笑いながら、ずっと他愛もない話を続けていた。
 ダンとの田舎暮らしや、好きな食べ物とか、失敗談とか……
 話題は尽きない……

 そんなふたりを、優しく見守っていたダンであったが、『頃合い』と見て、新たな話を切り出す。
 
 今回、この迷宮へ来た『本来の目的』についてである。
 すなわち迷宮の調査と、クラン(フレイム)やニーナの兄など行方不明者の救助だ。

「実は、この異界への転移は、奴等へ仕掛けた罠の仕上げでもあるんだ」

 罠の仕上げ……
 エリンとヴィリヤは「意外だ?」という顔をする。

「え? ここに居るのが罠なの?」
「ダン、そうなんですか?」

 首を傾げるエリンとヴィリヤへ、ダンは言う。

「ああ、俺達が姿を消しただけで、奴等は戸惑っているだろう」

「それって、エリン達が急に居なくなったから?」
「うふふ、あいつ、さぞ吃驚したでしょうね?」

 想像したら、可笑しくなったのであろう。
 エリン達は笑顔だ。
 特にヴィリヤはさも面白そうに笑っていた。

「だな。それに魔法で消えたと推測しても、何故、地下10階で消えたのかという疑問を持つだろう」

「確かに! 変だと思うよね?」
「ええ、最終目的地の目前ですものね」

「うん! 想像してみてくれ。奴はず~っと待つうちに……段々、いらいらして来る、最後には凄く腹が立っているだろう。どうして早く来ないのかとね」

「あははっ」
「今頃、頭から湯気を出していますね、あいつ」

「おお、それで俺は奴等の正体や目的をいろいろと考えてみた」

「正体? 目的?」
「一体、何者なのですかね? ダンには分かるのですか?」

「ああ、いくつかの事象を基に、あくまで俺の勘というか、あてずっぽうなんだが……」

「旦那様、なになに?」
「もったいぶらず、教えて下さい、ダン」

「もし言っても、おいおい何それ? って思わないでくれよ」

「分かった、早く!」
「ダン、じらさないで」

「じゃあ、言うぞ。彼等は……ダークエルフの一族かもしれない」

「え?」
「あいつ、ダークエルフ……なんですか? エリンさんと同じ?」

 あの憎き謎の『影』がダークエルフ?
 ダンの、推測を聞いたふたりはとても驚くが……

「ヴィリヤ、ダークエルフが呪われてなどいないと、はっきり分かっただろう?」

「は、はい……」

 ダンからいきなり問われ、ヴィリヤは、思わず口籠る。
 
 旧い本を読んだり、周囲から教えられたせいもあったが……
 つまらない迷信を、頭から信じていた自分が、あまりにも恥ずかしいから。
 エリンと親しくなった今となっては、もう『黒歴史』でしかない。

 羞恥で、顔を少し(あから)めたヴィリヤへ、ダンは言う。

「俺はエリンと暮らしてみて分かったが……ダークエルフはとても優れた種族だ。お前も、エリンと一緒に迷宮探索して実感した筈だ」

「た、確かに……」

 大きく頷いて同意するヴィリヤ。
 片や褒められて、照れるエリン。
 こちらも、少し頬を染めている。

「そ、そんな事ないよ……」

 しかし、ダンはきっぱりと言い放つ。

「いや、優れている。エリン、ヴィリヤ、これは人間である俺の客観的な意見だ。申し訳ないが、ふたりとも気を悪くしないで聞いてくれ」

「りょ、了解!」
「了解です!」

「ダークエルフは、エルフに比べ、魔力量や魔法の行使には少し遅れを取るかもしれない」

「う………」

 と、口籠るエリン。
 どうやら納得出来なくて、凄く反論したいらしい。
 だが、さすがに場の空気を読んで、「じっ」と我慢している。

「…………」

 一方、ヴィリヤは無言だ。
 嬉しいのか、少しだけ顔がにやけていた。

 ダンの『分析』は続いて行く。

「だが、身体の頑健さ、戦闘力、そして順応性ではエルフに勝る」

 今度の『反応』は全く逆である。
 エリンが勝ち誇り、ヴィリヤの表情が暗くなる。

「…………」
「う………」

「総合的に見て、エルフとダークエルフは互角と言って良い」

「互角……」
「う………」

 ダンからは、ダークエルフとエルフが能力的には、『互角』だと言われてしまい……ふたりは、また口籠ってしまったのである。
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登場人物紹介

☆ダン・シリウス

本作の主人公。人間族の男子。

魔法、体術ともに圧倒的な強さを誇る魔法使い。

特に火と風の魔法を得意とする。

飄々とした物言いだが、性格は冷静沈着、情に厚い部分も。但し、女性に対しては基本的に奥手。

召喚された異世界で、創世神の神託が出る度、世界へ降りかかる災いを払う役目を負わされた。

だが王都暮らしを嫌い、一旦役目を果たせば、次の神託まで、普段は山里に隠れるように住んでいる。

ある時『世界の災厄である悪魔王』を倒す仕事を請け負い、絶体絶命のピンチに陥ったエリンを、偶然に助けた。

☆エリン・ラッルッカ

地の底深く暮らす、呪われしダークエルフ族の王女。地の魔法の使い手。

突如、攻めて来た悪魔王とその眷属により、父と一族全員を殺される。

しかし、悲しみに耐え、前向きに生きると決意。

絶体絶命の危機を救ってくれたダンと共に、地上へ……

ダンの自宅へ強引に『押しかけ』た。

☆ヴィリヤ・アスピヴァーラ

エルフ族の国、イエーラから来た、アイディール王国王宮魔法使い。

水の魔法の使い手。エルフ族の長ソウェルの孫娘。

ダンを異世界から、『勇者』として召喚した。 

傲慢な振る舞いを、ある日ダンからたしなめられ、以来熱い想いを抱くようになる。

☆ニーナ

人間族の国アイディール王国王都トライアンフ在住の女子、ビストロ英雄亭に給仕担当として勤める。孤児であり、両親は居ない。双子の兄が居たが、ある迷宮で死んだらしい。

以前店で仕事中、ガラの悪い冒険者に絡まれた。だが、ダンに助けられ、彼に片思い状態である。

☆ベアトリス・アイディール

アイディール王国王女にして、創世神の巫女。

ある日突然、巫女の力を得ると共に、身体の自由を殆ど失い、更に盲目となった。

ダンに神託を与え、世界へふりかかる災厄を防ぐ。

巫女として役目を果たす事に生き甲斐を感じながら、自らの将来に対し、大きな不安を抱えている。

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