第1章 -  4  山代勇(5)

文字数 1,130文字

 4  山代勇(5)
 

 二、三日があっという間に五日となって、やっと病院を出られたのは一週間目の火曜日となる。腰を強打したことで古傷が炎症を起こし、痛みがひくまで大事を取ろうということだった。
 そうして翌日、普段より一時間以上も早く、彼は「DEZOLVE」に顔を出した。
 当然山代の姿はないが、彼のいない間に掃除を済ませてしまおうと、店内へ続く階段をホウキで掃き始めた時だった。
「きみが、天野くんだね……」
 いきなり声が聞こえて、慌てて見上げる翔太の視界に見知らぬ男の姿が映る。
 それが臨時のマスターだった。
 すでに四日目になると告げて、翔太に頭をチョコンと下げてきた。
 山代はいきなり姿を眩まし、病院に姿を見せた翌日から店に出て来ていないという。
「それでまあ、以前ちょっとだけここにいた僕に、声が掛かったってわけなんだ」
 アパートも引き払い、どこに行ってしまったのかまるで見当つかないらしい。
 ――どうしたんだろう?
 そう思いつつも、翔太にとってはそれほど大きな変化じゃなかった。
 ところがこんなことはまだ序の口で、本当の事件はそれから三日後に姿を見せた。
「天野さん、だよね。天野翔太さん……」
 アパートの前に停まっていた車から、突然そんな声が翔太に掛かった。
 立ち止まった彼の前に、ドアが開いて、いかにもって感じの男が現れる。
「ちょっと、お話いいですかね?」
 身長こそは翔太より低いが、それ以上に〝がたい〟の良さが際立つ男がそう続けて声にした時、彼の脳裏に浮かび上がったのは山代のことだった。
 ――やっぱり、借金のせいで!?
 となれば翔太も無視などできない。
 だから言われた通りに車に乗り込み、それでも所詮他人事だ……という、どこか安心している自分がいたのだ。
 ところがまるでそうじゃなく、翔太はまさしく当事者だった。
「どうして……?」
 ――どうしてだよ!
 何度も何度も声にして、それ以上に心に強く問い掛けた。
「仕方がねえよなあ……実の親父だっていうんだからよ。ここはまあ一発、素直に払っちゃくれまいかねえ〜」
 何が何だかわからなかった。
 ただ少なくとも、どうしてこうなったかだけはすぐに理解できたのだ。
「山代の野郎がさ、雲隠れしやがったのよ。まあ、見つけようと思えば見つけられるさ。でもよ、人手も時間もかかるだろ? それにさ、ありゃあ、どうしようもねえやつだからよ、いつ〝おっちんじゃう〟かもわからんし、まあさ、あんたの方が若いしね、真面目そうだから、確実だってことなのよ……」
「借金って……いくら、なんですか? それに、どうして山代さんが……?」
「まあよ、その辺はさ、これからじっくり教えてやるから……」
 それ以降は、何を聞いても男は黙ったままだった。
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