第8章 -  1 更なる衝撃

文字数 923文字

 1  更なる衝撃
 


「ちょっと、寄りたいところがあるから、ここで……」
 真っ青な顔してそう言ってくる彼に、千尋はすぐさま返そうとしたのだ。
 ――どこに行くの?
 だったか、 
 ――一緒に行くって!
 だったのかもしれない。
 ところが彼は間髪入れずに手をふって、「今日はありがとう!」と声にした。それからあっという間に背中を見せて、さっさと走り出してしまうのだった。
 ――ちょっと! どうして!?
 心だけでそう叫び、遠ざかる背中を目だけで追った。
 しばしの間立ち尽くし、腕時計を見れば、お昼にはまだちょっと前って時刻。
 バイトまではまだまだ時間がたっぷりあるし、だからと言って行くところも思い付かない。
 だから千尋は仕方なく、一回自宅に戻ってからバイトに出ようと思うのだ。
 なんとも頭がぼーっとしていて、少し横になって眠りたい。そんなふうに感じるのはやはり、さっきの話があまりに衝撃的だったからだろう。
 ――あれがもし、本当の話だったら……?
 そんな恐れを感じながらも、さらに別の疑念も浮かび上がった。
 もしも千尋の気付きが正解となれば、まさに天と地がひっくり返るってくらいの大ごとだ。だから、軽はずみに言葉になどできないし、かと言って、いくら考えたからって答えだって出ない。
 千尋は頭の隅で燻っているその疑念に関して、居酒屋大山で確かめたいと思うことがあった。
 アルバイトの面接には履歴書が必須だし、そんなのはもちろん、千尋に限ったことじゃないだろう……となれば……、
 ――あそこに行けば、きっと連絡先がわかる……。
 そんな確信にドキドキしながら、千尋の足は否が応でも早くなるのだ。
 そうして、横断歩道を渡ればあっという間に店だという時、歩道の先に人だかりが見えた。救急車までが停車中で、絶対事故か何かが起きたのだ。
 幸い信号は赤になったばかり。
 ささっと覗いて戻ってきても、青信号には間に合うだろう。
 そんなふうに考えて、千尋はそのまま人だかり目指して歩き出した。
 ところがそれから五分と経たないうちに、彼女は車上の人となる。
 ――どうして!? どうしてよ!?
 そんな声にならない思いを抱えて、ただただ天に祈るのだった。
 ――お願い! 死なないで!
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